「約5度」の意図 - 住宅設計・構造設計 - 専門家プロファイル

酒井 哲
TownFactory一級建築士事務所 代表
東京都
建築家

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対象:住宅設計・構造

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「約5度」の意図

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地元の市民活動で取り組んでいる昭和初期に建てられた蚕業施設の話です。
建物の設計図書が発見されたことで、調査研究が飛躍的に進みました。

配置図には、蚕室中心線(東西軸)を「約5度」振ると明記されていたのです。
この「約5度」と書かれた方位が気になりあれこれ考えていました。

何故「約5度なのか……。

まず5度の意味は磁北と真北の偏差のことで、
偏差を修正して建物を真南に配置したのだと思われます。

では何故「約」なのか……5度と具体的に描いてもいいはずですが……

当時の現場ではコンパスの目盛りを読んで磁北を割り出していたと想像できます。
その中で5度を正確に出すのは難しかったのではないでしょうか。
そこで、このような表現がちょうどいい塩梅だったと思われます。

数値よりも、磁北のままではなく、
蚕室を少しでも真南に配置したいという意思が読み取れます。

現在では企画段階の図面で数値に「約」を使うことがあっても
設計図書の配置図を「約」のまま描くことはありません。
また「約」表記の配置図では建築確認申請を通すことができないのです。

実際の建築現場でもデジタル化が進み、確実に数値が出ます。
計測も目盛りを読むのことから、画面に表示される数値を読むことが多くなっています。
2点間の距離を計るとミリ単位でも小数点2位まで計れますが、
一般の建築設計ではそのような精度は必要ないことの方が多いのです。

デジタル化で便利になりましたが、
不必要な精度に時間を割かれる矛盾が生じているのが現在の現場です。
そして、体で計っていた時代から、数値を読み取る時代への移行で
実際の距離に対する身体感覚も鈍くなっています。

「約」で、ものごとがうまくいくような、
アナログな勘所は大切にしたいものです。

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