インド特許法の基礎(第10回)(1)~特許出願(6)~ - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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インド特許法の基礎(第10回)(1)~特許出願(6)~

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インド特許法の基礎(第10回)(1)

~特許出願(6)~

 

2014年4月25日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 安田 恵

 

1.はじめに

 インドには「追加特許[1]」と呼ばれる制度がある(第2条(1)(q),第54条~56条)。出願人には、自身が行った特許出願に係る発明の改良又は変更について、追加特許の申請を行うことができる。追加特許の基礎になる特許出願の完全明細書に記載若しくは開示された発明は主発明と呼ばれる(第54条(1))。追加特許に係る発明は、主発明に対する進歩性が無くても、新規の改良又は変更であれば特許が認められる。

 

2.追加特許の要件

(1)  主体的要件

 追加特許の出願人は、主発明の特許出願の出願人又は主発明の特許権者と同一であることが要件である(第54条(1))。

 

(2)  客体的要件

 追加特許に係る発明は、主発明の改良又は変更に係る発明でなければならない(第54条(1))。追加特許に求められる客体的要件は、基本的に通常の特許出願と同様である。新規性および進歩性の判断基準日である優先日は後述するように追加特許の現実の出願日と考えられる。

 

 (a)進歩性

 追加特許の特許出願は、その完全明細書に記載された主発明の公開又は実施に基づいて、その改良発明の進歩性が否定されることは無い(第56条(1)(a))。例えば追加特許出願前に、主発明に係る特許出願が出願公開されていた場合であっても、かかる公開によって公知になった主発明に基づいて、追加特許の進歩性が否定されることは無い。また、追加特許の出願は、主発明の特許に対する追加特許の出願に係る完全明細書に記載された当該主発明の改良又は変更に基づいて、その進歩性が否定されることも無い(第56条(1)(b))。上述の実施の主体は特に限定されておらず、主発明の特許出願後、第三者が主発明の実施を行っても、かかる実施に基づいて追加特許に係る発明の進歩性は否定されないと考えられる。

 また言うまでもなく、追加特許として付与された特許が、上述した主発明の公開又は実施に基づいて取り消され又は無効にされることは無い(第56条(1))。

 

 (b)新規性

 上述のように主発明の公開又は実施に基づいて、追加特許の進歩性が否定されることは無いが、追加特許の新規性判断については主発明を記載した完全明細書も参酌して行われる(第56条(2))。従って、追加特許に係る発明は、主発明に対して進歩性を有する必要は無いが、少なくとも新規性を有する必要がある。

 進歩性[2]を有しない新規の改良は、例えば主発明と比較して何ら新しい結果、新たな物、より良い物又は安い物を生み出さないような発明である。2以上の数値又は物の単なる組み合わせであって、何ら創作性の発揮を要しない発明等は、進歩性を有しない新規の改良と言える。

 

 (c)出願の種類

 主発明の特許出願および追加特許の出願の種類について特段の限定は無く、通常の国内出願はもちろん、条約出願およびPCT国内段階出願についても、追加特許を申請することができると考える(第138条(4)[3],第139条[4])。

 

 (d)その他

 追加特許に係る発明は、主発明に対して進歩性を有し、独立の特許の主題となり得る場合であっても、追加特許の効力が否定されることは無い(第56条(1))。

 

(3)  時期的要件

 追加特許の出願は、図1に示すように主発明に係る特許出願の出願日と同日又はそれ以降に行わなければならない(第54条(3))。追加特許の出願は、主発明に係る特許出願以後に行われていれば十分であり、主発明の特許が登録された後であっても行うことができる。




図1 追加特許の時期的要件

 

(4)  手続的要件

 追加特許の出願を行う場合、主発明に係る特許番号又は出願番号,及び出願日を願書に記載しなければならない(規則13(3),様式1)。また,追加特許の出願が,主発明の改良又は変更に係る発明を含む旨の明確な陳述を願書において行わなければならない(規則13(3),様式1)。具体的には願書に次のような項目を設け、上述の必要事項を記入する。

8.        PARTICULARS FOR FILING PATENT OF ADDITION

Main application / Patent Number

Date of filing of main application

 

 

9.           DECLARATIONS:

(iii) Declaration by the applicant(s):

I/We, the applicant(s) hereby declare(s) that:-

・・・

-                      The said invention is an improvement in or modification of the invention particulars of which are given in Para - 8.

 

3.追加特許の効果

(a)存続期間

 追加特許の存続期間は,図2に示すように主特許の存続期間又はその残存期間と同一である(第55条(1))。追加特許は、主発明の特許が失効するまで存続する。主発明に係る特許が失効した場合、原則として追加特許も消滅する。ただし、後述するように、特許権者からの請求があるときは、裁判所又は長官は、追加特許を独立の特許とする旨を命じることができ、その特許は主発明に係る特許の残存期間について有効に存続することができる(第55条(1))。

 

 
 図2 追加特許の存続期間

 

(b)権利維持手続

 追加特許は更新手数料が不要である(第55条(2))。ただし、上述のように第55条(1)の規定に基づき、追加特許が独立の特許になったときは、以後、更新手数料を納付しなければならない(第55条(2))。特許発明の実施状況に関する報告(第146条)等のその他の手続きは、通常の特許出願と同様である。

 

(c)特許付与および特許証

 追加特許は、主発明の特許が付与された後に付与される。追加特許証は,主発明の特許証の交付前には交付されない(第54条(4))。

 

 

⇒第2回に続く

 

特許に関するご相談は河野特許事務所まで

 

 


[1] 「追加特許」とは,第54 条に従って付与された特許をいう(第2条(1)(q))。
「特許」とは,本法に基づいて発明に対し付与される特許をいう(第2条(1)(m))。

[2] Bishwanath Prasad Radhey Shyam vs Hindustan Metal Industries

[3] 138条(4) インドを指定して特許協力条約に基づいてされた国際出願は,場合により第7 条,第54条,及び第135 条に基づく特許出願の効力を有し,国際出願において提出の名称,明細書,クレーム及び要約並びに図面(ある場合)について,本法の適用上,これらを完全明細書と解する。」

[4] 139条「この章に別段の規定のある場合を除き,本法の全ての規定は,条約出願及びそれに基づいて付与された特許について,通常の出願及びそれに基づいて付与された特許について適用するのと同様に,適用する。」

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