独占禁止法の読んだ本 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

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独占禁止法の読んだ本

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相続

独占禁止法の読んだ本
〔入門書・概説書〕
厚谷襄児『独占禁止法入門』日経文庫(2005/11・第6版)
私は弁護士になってから読んだ。

谷原修身『独占禁止法の解説』一橋出版(2006/03・第6版)
「入門書」として手軽かなと思い、読んでみたが、本の作りが独禁法の条文の抜粋なので、多少、断片的な知識がついただけであった。

〔体系書〕
村上 政博教授の著作
『独占禁止法 第5版 』村上 政博 (2012/11/30)
村上教授の基本書である。版は違うが、私は弁護士になってから、筑波大学院のときに、精読した。第5版になってから、再度、拾い読みした。
村上説は、非常に論理的であり、魅力を感じた。村上教授はアメリカ留学中にシカゴ学派の影響を受けた。ただし、判例・通説との違いに注意をするべきである。
村上教授は、司法試験合格後、弁護士、アメリカ留学(LLM)、公正取引委員会の事務局勤務、大学教授などの多彩な経歴を持つ。
『特許・ライセンスの日米比較―特許法と独占禁止法の交錯』 村上 政博、浅見 節子 (2004/2)
『EC競争法―EC独占禁止法』 村上 政博 (2001/5)
『独占禁止法における判審決分析の役割』 村上 政博 (2009/1)
『アメリカ独占禁止法―シカゴ学派の勝利』 村上 政博 (1987/2)
『独占禁止法の日米比較―政策・法制・運用の相違(上・中・下)』 村上 政博 (1991年-1992年)
『独占禁止法研究』 村上 政博 (1997/5)
『独占禁止法研究〈2〉』 『独占禁止法研究〈3〉』
『アメリカ経済法―独占禁止法・通商法・知的財産権法の展開』 村上 政博 (1993/2)
『概説独占禁止法』 村上 政博 (1996/9)
『日・米におけるライセンス規制―企業の多国籍化と法』 (NIRA研究叢書) 村上 政博 (1989/1)
いずれも、私は弁護士になってから、おもに筑波大学院のときに、(拾い読みを含めて)読んだ。
また、『アメリカ独占禁止法―アメリカ反トラスト法 (アメリカ法ベーシックス) 』村上 政博 (2002/5) は未読。
なお、独禁法プロパーではないが、『弁護士・役人・学者の仕事―体験的比較職業論』 村上 政博 (1997/3) は、同教授の職業体験として、参考になる。

佐藤一雄『独占禁止法』
私は弁護士になってから、筑波大学院で佐藤教授の講義を受講しながら、読んだ。
文章が、やや難解である。
佐藤・元教授は、公正取引委員会の事務局出身である。

金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『独占禁止法』弘文堂(2010/06・第3版)


白石忠志『独占禁止法』有斐閣(2009/08・第2版)

白石忠志『独禁法講義(第6版)』有斐閣、平成24年
著者は、東京大学教授である。本文284頁。
・不公正な取引方法のうち、
共同の取引拒絶(独占禁止法2条9項1号、同条9項6号、一般指定1項)
(共同の取引拒絶)一般指定1項
(その他の取引拒絶)一般指定2項
・(差別対価継続的供給)独禁法2条9項2号
(差別対価)一般指定3項
(事業者団体における差別取扱い等)一般指定5項
・(差別的取扱い)独禁法2条9項6号イ
(取引条件等の差別取扱い)一般指定4項
(事業者団体における差別取扱い等)一般指定5項
・(不当廉売)独禁法2条9項3号
(不当対価取引)独禁法2条9項6号ロ
(その他の不当廉売)一般指定6項
(不当高価購入)一般指定7項
・(不当な顧客誘引)独禁法2条9項6号ハ
(ぎまん的顧客誘引)一般指定8項。
(不当な利益による顧客誘引)一般指定9項
独禁法の特別法として、不当景品類及び不当表示法(景表法)がある。
・(再販売価格拘束)独禁法2条9項4号
(拘束条件付き取引)独禁法2条9項6号ニ
(抱き合わせ販売等)一般指定10項
(排他条件付取引)一般指定11項
(拘束条件付取引)一般指定12項
・(優越的地位の濫用)独禁法2条9項5号
(取引上の地位利用)独禁法2条9項6号ホ
(競争事業者の取引妨害、競争会社の役員等選任干渉等)独禁法2条9項6号ヘ
(取引の相手方の役員選任への不当干渉)一般指定13項
(競争者に対する取引妨害)一般指定14項
(競争会社に対する内部干渉)一般指定15項
独禁法の特別法として、下請代金支払遅延等防止法がある。優越的地位の濫用類型であっても、下請法が適用されれば、独占禁止法は適用されないので(下請法8条)、課徴金の対象とならない。
公正取引委員会による企業結合審査
運用として、事前相談手続の制度がなくなり、事実上の個別相談に移行した。
公正取引委員会によるエンフォースメント
・排除措置命令
・課徴金納付命令
白石説は、公正取引委員会の考え・運用を批判している。
また、上記の不公正な取引方法の分類についても、公正取引委員会の見解とは異なる分類体系を採用している。
通説と異なり、白石説は、不公正な取引方法を、
(1)競争停止行為、
(2)他者排除型
①取引拒絶系、
②略奪廉売系、(注 アメリカ反トラスト法の「略奪的価格」による私的独占の意味であろうか。例えば、アルコア事件では「略奪的」とは、競争者を市場から排除するほどの低い価格で商品を供給し、競争者がいなくなった後の市場独占後に価格を吊り上げて、結局、独占の弊害が現れるという意味である。日本語での「略奪」とは意味合いが違うので、注意を要する。)
(3)搾取型(優越的地位の濫用のみ)
に分類している。
同書は、具体的な事件の解説について、白石忠志『独禁法事例の勘所(第2版)』(有斐閣2010年)の頁を引用するだけで、独占禁止法の骨子に関する簡潔な解説にとどまっているので、この本だけで、白石説を理解するのは難しいであろう。
白石教授の体系書として、『独占禁止法(第2版)』(平成21年)があるが、出版年が古いので、注意。
三井住友銀行事件の市場画定に関する簡潔なコメントは鋭い。

白石忠志『独禁法事例の勘所(第2版)』(有斐閣2010年)

白石忠志『事例教材独禁法』商事法務(2007/10)

岸井・向田・和田・内田・稗貫『経済法 独占禁止法と競争政策(第7版)』有斐閣アルマ(2013年)
2009年に独禁法が改正され、不公正な取引方法のうち以下の5類型が法定化され(独禁法2条9項1号~5号)、課徴金の対象となった。
・共同の取引拒絶(独禁法2条9項1号)
・差別対価継続的供給(独禁法2条9項2号)
・不当廉売(独禁法2条9項3号)
・再販売価格拘束(独禁法2条9項4号)
・優越的地位の濫用(独禁法2条9項5号)
なお、独禁法2条9項6号について、課徴金の対象とはされていない。
独禁法2条9項と一般指定の関係を整理すると、おおむね以下のとおりとなる。
・(共同の取引拒絶)独禁法2条9項1号
不公正な取引方法の共同の取引拒絶は、不当な取引制限に至らない程度のものである。
(共同の取引拒絶)一般指定1項
(その他の取引拒絶)一般指定2項
・(差別対価継続的供給)独禁法2条9項2号
(差別対価)一般指定3項
(事業者団体における差別取扱い等)一般指定5項
・(差別的取扱い)独禁法2条9項6号イ
(取引条件等の差別取扱い)一般指定4項
(事業者団体における差別取扱い等)一般指定5項
・(不当廉売)独禁法2条9項3号
(不当対価取引)独禁法2条9項6号ロ
(その他の不当廉売)一般指定6項
(不当高価購入)一般指定7項
・(不当な顧客誘引)独禁法2条9項6号ハ
(ぎまん的顧客誘引)一般指定8項。
(不当な利益による顧客誘引)一般指定9項
独禁法の特別法として、不当景品類及び不当表示法(景表法)がある。
・(再販売価格拘束)独禁法2条9項4号
(拘束条件付き取引)独禁法2条9項6号ニ
(抱き合わせ販売等)一般指定10項
(排他条件付取引)一般指定11項
(拘束条件付取引)一般指定12項
・(優越的地位の濫用)独禁法2条9項5号
(取引上の地位利用)独禁法2条9項6号ホ
(競争事業者の取引妨害、競争会社の役員等選任干渉等)独禁法2条9項6号ヘ
(取引の相手方の役員選任への不当干渉)一般指定13項
(競争者に対する取引妨害)一般指定14項
(競争会社に対する内部干渉)一般指定15項
独禁法の特別法として、下請代金支払遅延等防止法がある。
独禁法2条9項  この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
一  正当な理由がないのに、競争者と共同して、次のいずれかに該当する行為をすること(共同の取引拒絶)。
イ ある事業者に対し、供給を拒絶し、又は供給に係る商品・役務の数量・内容を制限すること。(共同の供給拒絶)
ロ 他の事業者に、ある事業者に対する供給を拒絶させ、又は供給に係る商品・役務の数量・内容を制限させること。
二  不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品・役務を継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの (差別対価継続的供給)
三  正当な理由がないのに、商品・役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの (不当廉売)
四  自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
イ 相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。(再販売価格拘束)
ロ 相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。(再々販売価格拘束)
五  自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。(優越的地位濫用)
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務を購入させること。(抱き合わせ販売等)
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。(利益提供強制)
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。(不当な受領拒絶・返品・支払遅延・代金減額、不利益取引条件)
六  前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
イ 不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。(差別的取扱い)
(共同の取引拒絶)一般指定1項
(その他の取引拒絶)一般指定2項
(差別対価)一般指定3項
(取引条件等の差別取扱い)一般指定4項
(事業者団体における差別取扱い等)一般指定5項
ロ 不当な対価をもって取引すること。(不当対価取引)
(不当廉売)一般指定6項
(不当高価購入)一般指定7項
ハ 不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること。(不当な顧客誘引)
(ぎまん的顧客誘引)一般指定8項。
(不当な利益による顧客誘引)一般指定9項
ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること。(拘束条件付き取引)
(抱き合わせ販売等)一般指定10項
(排他条件付取引)一般指定11項
(拘束条件付取引)一般指定12項
ホ 自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。(取引上の地位利用)
ヘ 自己又は自己が株主・役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者が会社である場合において、その会社の株主・役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、唆し、若しくは強制すること。(競争事業者の取引妨害、競争会社の役員等選任干渉等)
(取引の相手方の役員選任への不当干渉)一般指定13項
(競争者に対する取引妨害)一般指定14項
(競争会社に対する内部干渉)一般指定15項
業種ごとの特殊指定として、以下の3つがある。
「新聞業における特定の不公正な取引方法」(平成十一年七月二十一日公正取引委員会告示第9号)(いわゆる新聞業特殊指定)
「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(平成十六年三月八日公正取引委員会告示第一号)(いわゆる物流特殊指定)
「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(平成十七年五月十三日公正取引委員会告示第十一号)(いわゆる大規模小売業特殊指定)
・企業結合審査
企業結合審査については、改正がされている。しかし、この本では、改正が反映されていない。
・独占禁止法の公正取引委員会によるエンフォースメント
排除措置命令
課徴金納付命令
審判
・独占禁止法の民事的規制
差止請求権 (独占禁止法24条)
審決を前提とした損害賠償請求訴訟(独占禁止法25条)
民法709条に基づく損害賠償請求訴訟
その他、民法・商法・会社法などに基づく訴訟

藤井・稲熊『逐条解説・平成21年改正独占禁止法』
商事法務、2009年、本文185頁。残りの部分(第3部)は参考資料である。
時間がない人は、簡潔に要点をまとめてある第1部(約40頁)だけを読めば十分である。
課徴金制度の拡充と企業結合規制の見直し等の解説である。
第1部 総論
第1章 改正までの経緯
第2章 課徴金制度の見直し
1 排除措置命令・課徴金納付命令の趣旨・目的
 排除措置命令は、独禁法違反行為がされた場合、競争秩序を回復するための公正取引委員会による命令である。
 課徴金納付命令は、独禁法違反行為のうち一定のものについて、金銭的な不利益を課す行政上の措置である。
2 排除型私的独占に対する課徴金制度の導入
 従来はカルテル・入札談合等の不当な取引制限が課徴金納付命令の対象であった。
 平成17年独禁法改正により、支配型私的独占(経済的に価格カルテルと同じ競争制限効果が生じる)について、課徴金納付命令制度が導入された。
 平成21年改正は、供給に係る排除型私的独占(取引拒絶、差別対価など)についても、競争制限効果があることから、課徴金納付命令の対象とされた。
 課徴金の算定は、売上額に、算定率(製造業等6%、小売業2%、卸売業1%)をかけたもので計算される。
3 不公正な取引方法に対する課徴金制度の導入
 課徴金制度の対象として、不公正な取引方法のうち、以下の5類型が法定された。
(ア) 共同の取引拒絶
(イ) 継続的な差別対価、
(ウ) 不当廉売
(エ) 再販売価格の拘束
(オ) 優越的地位の濫用
課徴金の算定方法は、原則として、売上額(優越的地位濫用のみ取引の相手方との売上高)に、算定率(製造業等6%、小売業2%、卸売業1%)をかけたもので計算される。
 なお、下請法に基づく勧告に従った場合には、課徴金の対象とならない(下請法7条)。
4 不当な取引制限において主導的役割をした事業者に対する課徴金の割増し
 上記のような事業者に対する課徴金は5割増しとされた。
5 課徴金減免制度の見直し
 独禁法違反行為を申告をした事業者について、課徴金の減免がされた。従来は申告順3社までだったのが、5社に拡大された。また、同一企業グループは1社とカウントするように改正された。
6 排除措置命令の対象となる事業者の範囲の明確化
7 違反行為に係る事業を承継した事業者に対する課徴金納付命令
 独禁法違反行為をした事業者の事業を承継した事業者に対して、排除措置命令・課徴金納付命令の対象とすることができるように改正された。
8 排除措置命令・課徴金納付命令の除斥期間の延長
 除斥期間は、従来は3年間だったのが、5年間に改正された。
第3章 企業結合規制の見直し
第4章 不当な取引制限等の罪に対する懲役刑の引き上げ
第5章 その他の改正
1 海外競争当局に対する情報提供
2 利害関係人による審判記録の閲覧・謄写
 審判記録の閲覧・謄写について、正当な理由があれば、公正取引委員会は拒否できる。
3 差止請求訴訟における文書提出命令の特則の導入
 独禁法違反行為に対する民事上の差止請求訴訟について、文書提出命令をより活用しやすくするための特則が設けられた。
4 裁判所の公正取引委員会に対する求意見制度の見直し
 独禁法25条訴訟について、旧法では裁判所が公正取引委員会に対する意見を求めることが義務付けられていたのを、意見を求めるかどうかについて任意的とする旨改正された。
5 職員等の秘密保持義務違反にかかる罰則の引き上げ
6 事業者団体届出制度の廃止
第2部 逐条解説
企業結合規制の規定の主な改正
・株式取得が事後報告制から事前届出の対象になった。
・対象企業の基準が総資産額から企業集団の国内売上高合計額へ
・届出基準(国内売上高合計額)の基準額が引き上げられた(届出不要の範囲が広がった)
・共同株式移転について、規定の整備
[株式取得]
株式取得会社の国内売上高合計額が200億円超で、かつ、被取得会社の国内売上高合計額50億円超
[合併等]
合併当事会社のうち国内売上高合計額が200億円超と50億円超の会社がある場合
[事業譲渡・事業譲受け]
事業譲受け会社の国内売上高合計額200億円超
事業譲渡会社の国内売上高合計額30億円超 

川濱昇『企業結合ガイドラインの解説と分析』
商事法務、2008年
 合併、会社分割、株式保有などを規制する公正取引委員会の企業結合ガイドラインについて、学者による解説である。
 同じテーマについて、記述が重複している。基本書・ガイドラインを読んでいる人ならば、必要な個所を拾い読みすればよい。
上記書籍のうち、以下の部分を読みました。
第1章 企業結合ガイドライン概説
市場支配力を示す指標であるHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)の算出方法と、HHIによるセーフハーバー(審査不要基準)、HHIが算定困難の場合の代替的算出方法については、理解しておかなければならない。
HHIについては、企業結合審査手続において公正取引委員会に提出する必要がある。HHIとは、市場の各企業のシェアの2乗の合計値である。ただし、シェアの率が正確に算出できない場合には、経済学的手法により、簡便な他の算定式を用いる。
ただし、具体的な算出については、当該市場をよく知っている当事会社、その依頼する経済アナリストが担当する。
第4節 企業結合ガイドラインによる競争制限効果の審査方法
Ⅰ 企業結合の違法性判断基準
Ⅱ 一定の取引分野の画定
1 概説
 製品等の機能・効用が同一・類似であり、かつ、地理的範囲をもって、市場画定する。
2 仮定的独占者基準(SSNIPテスト)
 仮定的独占者基準(SSNIPテスト)とは「需要者にとっての代替性をみるに当たっては、ある地域において、ある事業者が、ある商品を独占して供給しているという仮定の下で、当該独占事業者が、利潤最大化を図る目的で、小幅ではあるが、実質的かつ一時的ではない価格引上げをした場合に、当該商品または地域について、需要者が当該商品の購入を他の商品または地域に振り替える程度を考慮する。他の商品または地域に振り替えの程度が小さいために、当該独占事業者が価格引上げにより利潤を最大を拡大できるような場合には、その範囲をもって、当該企業結合によって競争上何らかの影響が及び得る範囲ということになる。」
 この基準の評価については賛否両論がある。そもそも「仮定的」な基準であることが前提だから、絶対的な基準ではないことは言うまでもないであろう。
3 重畳的市場画定
 市場画定は1つにとどまらず、複数の市場として画定され得る。
4 国境を越えた市場の画定
 国際競争力を考慮すべきである。なお、本稿では指摘されていないが、日本の大企業は、世界市場でのシェアが低く、アメリカ・EUでは中小企業程度の扱いを受けることも多い。
Ⅲ 市場支配力分析の基本的枠組み
Ⅳ 単独の市場支配力
Ⅴ 協調による市場支配力
 市場が寡占状態の場合、競争企業との協調により、市場支配力が生じる。
Ⅵ 効率性、破綻企業(についての考え方)
第2章 企業結合審査の対象
Ⅰ はじめに
Ⅱ 株式保有
Ⅲ 役員兼任(独禁法13条)
Ⅳ 合併(15条)
Ⅴ 分割(15条の2)
Ⅵ 事業譲受け等(16条)
第3章 一定の取引分野
第1節 ガイドラインの解説
Ⅰ 一定の取引分野の画定の基本的考え方
 SSNIPテストの算出方法について述べられている。具体的な算出は、経済アナリストが担当する。
Ⅱ 供給者にとっての代替性
Ⅲ 商品の範囲
Ⅳ 地理的範囲
Ⅴ その他
第2節 一定の取引分野の画定の実際
第4章 水平型企業結合による競争の実質的制限
水平型企業結合は、競争事業者の数を減少させるので、取引制限的効果が生じやすく、または、競争事業者間の協調行動が生じやすいので、企業結合ガイドラインの主な対象である。
第5章 垂直型企業結合・混合型企業結合
これらの場合には、競争事業者の数を減少させないので、市場の閉鎖性・排他性、または、競争事業者間の協調行動が生じない限り、原則として、企業結合ガイドラインでは問題が生じない。
主な規制対象として、①垂直型企業結合の場合、複数の段階の市場において、競争事業者が参入しにくい状況が生じること、②経営資源(製品設備、原材料、流通網、技術など)を競争事業者が入手しにくくし、競争事業者を不利な立場におくこと(競争事業者の需要に着目した観点)、③市場の閉鎖性を作り出すことによって、競争事業者が売り先を見つけることを困難にすること(競争事業者の供給先に着目した観点)などがある。
第6章 問題解消措置

〔判例集〕
厚谷襄児・稗貫俊文編『独占禁止法審決・判例百選』有斐閣(2002/03・第6版)
私は弁護士になってから、筑波大学院のときに、読んだ。
『経済法審決・判例百選』有斐閣
有斐閣の判例百選シリーズのうちの1冊である。
独占禁止法に加えて、不当景品類及び不当表示法も収録されている。
独占禁止法の最高裁判例・高等裁判所判決は少ない。
私は弁護士になってから、筑波大学院の法学修士課程(企業法学専攻)のときに、最高裁判決・高等裁判所判決の平成8年までの部分は全て読んだ。平成9年以降については、最高裁判決の資生堂事件、花王化粧品事件などは読んだ。その当時の書名のタイトルは『独占禁止法審決・判例百選』であった。
その他、公正取引委員会の主な審決については、随時、概要と結論だけは知っていたが、この『経済法審決・判例百選』を改めて読んだが、おおむね結論は妥当と思われる。
ちなみに、判例百選の中で、タイトルに審決が入っているのは、独占禁止法・経済法だけである。

最高裁判例解説(民事編・刑事編)(法曹会)
最高裁調査官による解説。私は弁護士になってから、筑波大学院のときに、読んだ。独禁法に関する最高裁判例は数が少ないので全て読んだ。


[実務書]
第二東京弁護士会知的財産研究会『ブランドと法』
商事法務、2010年、本文430頁。
複数の講師(裁判官・弁護士・弁理士などの実務家)による講演録のまとめである。
ブランドに関する法律として、商標法、不正競争防止法、独占禁止法を取り上げている。
上記書籍のうち、独占禁止法に関して、以下の部分を読みました。
「2 ブランドと独占禁止法」
独占禁止法に関する一般的説明は、独占禁止法を勉強したことのある人にとっては、やや長いです。
独占禁止法21条に基づく知的財産ガイドラインは商標権には適用されない。
独占禁止法は、供給される商品・役務について、市場画定をおこない、市場に対する悪影響つまり競争制限的効果を考える仕組みである。そして、市場画定の際には、ブランド間競争(異なるブランド間での競争)・ブランド内競争(同じブランド内での競争)にわけて考えるから、指定商品・指定役務に対する商標権を独占禁止法の適用除外とするわけにはいかない。なお、商品・役務の需要側の場合の市場画定も同様である。
講師は上記のようには説明していませんが、私の説明のほうが簡潔・端的で分かりやすいと思われる。
また、流通ガイドラインでは、再販売価格維持はブランド内競争でも違法であるという立場と理解するのが通例であろう。
また、化粧品会社に対する公正取引委員会の審決と、資生堂・富士喜屋の民事訴訟とでは、結論が逆になっているのは周知のとおり。
なお、講師は、いろいろな事例を引き合いに出しているが、結論を明示していない箇所が少なくない。

第二東京弁護士会知的財産法研究会『エンターテインメントと法律』
商事法務、2005年、本文9項目、約400頁。
上記書籍のうち、独占禁止法に関して、以下の部分を読みました。
エンターテインメントに関する「独禁法と下請法の実務」
下請法では、親事業者の受領拒否・不当なやり直し要求が禁止されている。しかし、コンテンツの技術・技能不足により、技術・芸術水準を満たしていなければ、完成されていないことが理由であれば、正当な理由になるであろう。
また、下請法3条で、書面交付義務が定められているが、その中で役務の仕様などを記載すべきところ、放送番組などのコンテンツにはほとんど役に立たない。

現代企業法研究会『企業間提携契約の理論と実際』
判例タイムズ社、2012年
上記書籍のうち、独占禁止法に関して、以下の部分を読みました。
「6 株式の持ち合い」
 株式の持ち合い(相互保有)の機能について、取引先の場合、非上場企業であっても、株主であれば、当然に企業の支配状況・財務内容などをモニタリングできるという実際上の機能の指摘が抜けていた。
株主であれば、少なくとも年1回開催される株主総会に出席して、主要株主や経営陣の動向(ガバナンス)を把握し、決算書を入手できる。
バブル崩壊前のメインバンクであれば、非上場会社であっても主要な融資先について、独占禁止法・銀行法に規定されている相手先企業の株式割合が5%以下という制限があっても、株式を保有していたのは、上記のようなメリットがあったからである。
昨今、銀行の財務体質改善のために、銀行が保有株式を放出して、株式の相互保有が崩れたが、それとともに、取引先企業に対するモニタリング機能が低下している。
そして、そのような歴史を知らない世代の銀行員がいとも簡単に取引企業の財務書類が入手できるとか融資先のガバナンスの情報を取得できるとか錯覚しているのは、上記のような「実務上の智恵」を知らないからである。
考えてみればわかるであろうが、年1回だけでも、役員全員や主要株主の人間関係を観察し、その動向を把握する機会があるというのは、実務的には意義が大きい。株主でもない外部の人間に「我が社の内情」をわざわざ見せるはずもない。
また、旧独占禁止法9条の改正により、銀行・保険会社以外の事業会社について、株式の保有制限がなくなった。事業会社であれば、安定株主対策目的や取引先と商売上の付き合いだけでなく、株式を相互保有することによって、少なくとも年1回開催される株主総会に出席して、主要株主や経営陣の動向などの企業統治(ガバナンス)を把握し、決算書を入手できる。それによって、取引先の情報を確実に入手できるツールの1つであり、また、今後の商売上の付き合いを継続すべきか・拡大縮小すべきか、あるいは平常時からの債権保全の手段の1つでもあるからである。
「8 共同研究開発契約」
本稿は、民法上の組合、有限責任事業組合契約に関する法律の有限責任事業組合契約に関して検討している。
しかし、共同研究開発契約には、合弁会社、委託契約、商法上の匿名組合、事業者団体、中小企業等協同組合法に基づく協同組合、ライセンス契約、出資や資金貸与などを行う形式などのさまざまな法的形式が考え得る。これらの論点について、本稿は検討していない。
なお、本稿では「ライセンス」を独占的実施権のみを指す用語に理解しているが、適切ではない。また、実施権がある場合、特許権の準共有者に対して影響を与えないかのごとき記述があったが、大きな誤解であろう。
特許法改正により、特許権が移転等した場合にも、移転前に設定された通常実施権は、登録なくして、特許権の譲受人に対して対抗できる(特許法99条)点の指摘が抜けている。
また、職務発明(特許法35条)について、対価の点の検討が抜けていた。職務発明の対価についての分担などをどのようにするかは1つの問題である。
また、本稿では、独占禁止法上の取扱いの検討がされていない。
一方的に知的財産の成果物を委託者に帰属させるのは、優越的地位の濫用に該当する(優越的地位濫用ガイドライン)。
また、公正取引委員会によれば、下請代金支払遅延等防止法にも違反する場合があると解されている。
また、情報交換が独占禁止法(不当な取引制限または、不公正な取引方法)に該当するかが問題となる場合がある。
有限責任事業組合契約に関する法律についての記述は、おおむね妥当であろう。
本稿では検討されていないが、大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律も問題となる。
「9 企業間提携契約と継続的契約」
本稿は、平井宣雄教授、内田貴教授の学説を検討している。しかし、中田裕康教授に依拠しているとしつつ、中田教授の見解を紹介していないのは、学説上のプライオリティを遵守していない。
無償契約について補償を要するとの見解は、やや違和感を覚える。例えば、有償委任の場合の解除の損害賠償、役員の解任の場合の損害賠償のような事例は、いずれも、有償契約が前提だからである。もっとも、例えば、無償使用貸借契約のように、事前に予告期間を置くべきとするのは、賛同したい。ただし、企業間で、全くの無賞という事例は想定するのは困難だが。
履行利益と信頼利益の区別がよくできていないようである。ただし、平井宣雄教授、内田貴教授ともに、両者の利益を峻別する通説に批判的である。そして、裁判例も、必ずしも、両者の利益の名称にとらわれずに、具体的事案に応じて、相当因果関係のある損害の場合に限って、損害賠償を認めているのではないかという一部の学説の指摘もある。
本稿では指摘されていないが、資生堂事件、花王事件の最高裁判決においては、継続的契約の打ち切りについて、「やむを得ない理由」は必要ないが、「正当な理由」は必要であると解されている。
某週刊誌が鉄道会社を批判する記事を掲載したところ、当該掲載号から、鉄道会社での売店での当該週刊誌の販売打ち切りをしたため、雑誌会社が鉄道会社に継続的契約の地位にあるという仮処分を起こして、結局、契約を継続する和解で終了した事件があるが、そのような指摘が抜けていた。
下請代金支払遅延等防止法が関係する場合には、下請代金支払遅延等防止法を遵守すべきである。この点の指摘が抜けていた。
また、継続的契約について、企業間であれば独占禁止法、(事業者と消費者間では特定商取引法、消費者契約法なども)が問題となる。この点の検討も弱いようである。
「10 OEM契約」
OEM契約に含まれる契約類型と関連する法律が列挙されている。
民法(売買、請負)
商法(商事売買、商行為法)
独占禁止法
下請代金支払遅延等防止法
製造物責任法(なお、OEM契約当事者間では債務不履行・契約責任も問題となる)
保険法(生産物責任保険と免責特約)
知的財産法として、特許法・実用新案法、意匠法、商標法、不正競争防止法(営業秘密)
外為法
租税法
仲裁法(商事仲裁)
「12 合弁事業者の法形態選択」
合弁事業の形態として、株式会社、合同会社、有限責任事業組合契約に関する法律に基づく有限責任事業組合(LLP)、組合を比較している。
1、 合弁事業の契約を会社などにどう反映させるか(株主間契約、定款など。なお、株主間契約の契約当事者は株主であって、会社ではないから、株主間契約に会社は拘束されないと解されている。)
2、 出資比率
3、 事業形態の設立の費用・登記
4、 不動産の登記
5、 知的財産権の登録
6、 業務執行者
7、 機関設計・権限分配
8、 重要事項の決定(議決権行使)
9、 損益分配・損失負担
10、 資金調達
11、 合弁事業の終了
12、 出資持分の譲渡制限(好ましくない第三者が加入することの防止)
13、 出資持分の譲渡・払い戻し、先買権、買取請求権(プットオプション)、譲渡価格・清算の際の価格の取り決め
14、 構成員の脱退の防止(有効な対策はない。)
15、 金融機関・取引先からの評価(本稿では指摘されていないが、金融機関に対しては融資の際に定款を提出する必要があり、定款に構成員の権利義務が詳細に規定されていれば、金融機関がどう評価するかは問題である。)
16、 第三者に対する損害賠償責任(本稿では指摘されていないが、どの事業形態を選択しても、会社そのもの、あるいは、業務執行の担当者の所属する会社に対して、使用者責任などが追及される可能性がある。)
17、 構成員の倒産リスク(本稿では指摘されていないが、上場企業どうしの建設事業の共同事業で、組合の構成員企業が法的倒産し、他の構成員企業が損失を負担した事例が過去にあった)
18、 合弁事業や構成員に対する課税
なお、本稿では指摘されていないが、株式会社以外の法律請負形態であれば会計監査人設置会社とする必要がないのがメリットであるとの指摘があったが、私見では、逆に会計・監査の面でのデメリットになると思われる。上場企業の場合、連結対象であれば、監査の対象になる。また、法人税法上、連結対象とされていなくとも、税務調査の対象となる。
組合は、特定の商品・役務、建設事業の共同受注に向いているとされている。また、本稿では触れられていないが、映画の「製作委員会」方式も該当すると解される。
「15 企業間提携契約としての技術ライセンス契約とその条項」
特許権等侵害訴訟で和解した場合のライセンス条項が不抗争条項であるとの記述には疑問がある。ライセンス契約であれば、実施料(ロイヤリティ)、クロス・ライセンス契約などの定められることが多い。
本稿では詳述されていないが、ライセンス契約について、独占禁止法が適用されるかが問題となる。

[雑誌]
「ジュリスト」(有斐閣)には、独占禁止法に関して、学術的な解説論考が掲載されている。
「月刊ビジネス法務」(中央経済社)には、独占禁止法に関して、実務的な解説・論考が掲載されている。

ビジネス法務2007年11月号、「独禁法実務の羅針盤 業務提携に対する規制」
事業者間の独占禁止法による規制を検討している。
・共同販売の目的の子会社による販売は価格カルテルにつながりやすく、不当な取引制限として、独禁法で違法とされる。
・共同販売ではなく、販売促進目的で、共同で販売促進することは、販売促進の費用を節約するから、独禁法上、合法である。
・合計して業界シェア20%程度の中小企業の(下位)メーカーが、共同販売することは、競争制限効果をもたらさないから、独禁法上、合法である。