第三者行為災害(交通事故)の過失相殺と労災保険法の関係 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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第三者行為災害(交通事故)の過失相殺と労災保険法の関係

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相続

第三者行為災害(交通事故)の過失相殺と労災保険法の関係

最高裁判決平成元年4月11日、損害賠償請求事件

民集43巻4号209頁 、判例タイムズ697号186頁

【判示事項】 いわゆる第三者行為災害に係る損害賠償額の算定に当たっての過失相殺と労働者災害補償保険法に基づく保険給付額の控除との先後

【判決要旨】 労働者がいわゆる第三者行為災害により被害を受け、第三者がその損害につき賠償責任を負う場合において、賠償額の算定に当たり労働者の過失を斟酌すべきときは、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価格を控除するのが相当である。

【参照条文】 民法709条、 民法722条2項

       労働者災害補償保険法12条の4

 本件は、交通事故の被害者の損害賠償額の算定にあたり過失相殺をすべき場合において、労災保険給付がされていたときに、過失相殺をしてから保険給付相当額を控除すべきか、その逆にすべきかが問題とされた事案である。

 原審は、被害者Xにつき6割の過失相殺をすべきものとし、まず過失相殺としてXの損害から6割を控除して、休業損害を799万0706円、その他の損害を156万5385円と算定し、休業損害は労災保険給付により、その他の損害は自賠責保険及びYからの270万円の支払によりすべて填補されたとし、Xの請求は棄却すべきものであるが、Xの不利益に変更することは許されないとして、Xの控訴を棄却した。

 Xは上告して、休業損害の額から労災保険法に基づく休業給付の額を控除した後に過失相殺をすべきであるのに、休業損害の額につき過失相殺をした後の額から休業給付の額を控除すべきものとした原審の判断は、法令の解釈適用を誤った違法がある旨主張したが、本判決は、判決要旨のとおり判示してXの上告を棄却した。

 過失相殺と労災保険給付額の控除との先後に関する学説、下級審判決には、次のものがある。

 控除前相殺説は、社会保険者が給付した額を限度として国の求償権に優先権を認める考え方であり、損害(本件では休業損害)総額につき過失相殺をしたあとで社会保険の給付(休業給付)額を控除すべきであるとする。

国は、加害者である第三者に対し、その損害賠償責任の範囲内で、給付額を限度として求償権を有することになる(加藤一郎・季労113号14頁、岩出誠・ジュリ881号141頁、安西愈『労働災害の民事責任と損害賠償下』194頁、大阪地判昭59・2・28判例タイムズ525号32頁等)。

 控除後相殺説は、損害総額から社会保険の給付額を控除した後の損害額につき過失相殺をすべきであるとする説で、加害者である第三者に対する国の求償権は被害者の過失割合に対応した額に限られることになる(西村健一郎・民商93巻臨時増刊号(2)425頁、城口順二・労旬913号45頁、佐々木一彦・ジュリ増刊総合特集交通事故―実態と法理168頁、福永政彦『民事交通事件の処理に関する研究』418頁、西島梅治『保険法(第2版)』239頁、浦和地判昭61・11・26判時1222号101頁、高松高判昭58・12・27交民集16巻6号1578頁等)。  控除後相殺説は、損害総額から給付額を差し引いた差額につき被害者に優先権を認める、すなわち、過失相殺の結果得られた損害額から被害者が右の差額を優先的に取得し、その残額につき国が加害者である第三者に対して求償権を有するとする考え方である。この説は、労災保険の社会保障的性格に鑑み、被害者の救済を厚く考え、労災保険法の損害填補性のみを重視すると、過失相殺割合が大きいため、損害賠償額が保険給付額を下回る場合には、政府は適正な保険運営のため被害者から不当利得として返還を求めねばならず、これでは労災保険制度の趣旨に反することになるとする(古賀哲夫・法律時報58巻4号141頁)。

 労災保険の実務は、控除前相殺説をとっている(昭32・7・2基発第551号、昭35・11・2基発第934号、労働基準局補償課編『新版労災保険と自賠保険調整の手引』97頁、101頁)。

 最1小判昭55・12・18民集34巻7号888頁は、破棄自判するにあたり、過失相殺後に労災保険による遺族補償額を控除しているが、その理由については格別判示していない。昭和55年最高裁判決は、控除前相殺説に立って事案を処理したものということができよう。

 本判決は、判決要旨のように判断して、右最判と同様、控除前相殺説によることを明らかにしたものである。

前記最判後も下級審判決及び学説の対立していた点について、明確な判断を示したものであり、実務に影響するところが大きい。