現代企業法研究会『企業間提携契約の理論と実際』 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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現代企業法研究会『企業間提携契約の理論と実際』

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相続

現代企業法研究会『企業間提携契約の理論と実際』
判例タイムズ社、2012年
今日までに、上記書籍のうち、以下の部分を読みました。
「6 株式の持ち合い」
 株式の持ち合い(相互保有)の機能について、取引先の場合、非上場企業であっても、株主であれば、当然に企業の支配状況・財務内容などをモニタリングできるという実際上の機能の指摘が抜けていた。
株主であれば、少なくとも年1回開催される株主総会に出席して、主要株主や経営陣の動向(ガバナンス)を把握し、決算書を入手できる。
バブル崩壊前のメインバンクであれば、非上場会社であっても主要な融資先について、独占禁止法・銀行法に規定されている相手先企業の株式割合が5%以下という制限があっても、株式を保有していたのは、上記のようなメリットがあったからである。
昨今、銀行の財務体質改善のために、銀行が保有株式を放出して、株式の相互保有が崩れたが、それとともに、取引先企業に対するモニタリング機能が低下している。
そして、そのような歴史を知らない世代の銀行員がいとも簡単に取引企業の財務書類が入手できるとか融資先のガバナンスの情報を取得できるとか錯覚しているのは、上記のような「実務上の智恵」を知らないからである。
考えてみればわかるであろうが、年1回だけでも、役員全員や主要株主の人間関係を観察し、その動向を把握する機会があるというのは、実務的には意義が大きい。株主でもない外部の人間に「我が社の内情」をわざわざ見せるはずもない。
また、旧独占禁止法9条の改正により、銀行・保険会社以外の事業会社について、株式の保有制限がなくなった。事業会社であれば、安定株主対策目的や取引先と商売上の付き合いだけでなく、株式を相互保有することによって、少なくとも年1回開催される株主総会に出席して、主要株主や経営陣の動向などの企業統治(ガバナンス)を把握し、決算書を入手できる。それによって、取引先の情報を確実に入手できるツールの1つであり、また、今後の商売上の付き合いを継続すべきか・拡大縮小すべきか、あるいは平常時からの債権保全の手段の1つでもあるからである。

「8 共同研究開発契約」
本稿は、民法上の組合、有限責任事業組合契約に関する法律の有限責任事業組合契約に関して検討している。
しかし、共同研究開発契約には、合弁会社、委託契約、商法上の匿名組合、事業者団体、中小企業等協同組合法に基づく協同組合、ライセンス契約、出資や資金貸与などを行う形式などのさまざまな法的形式が考え得る。これらの論点について、本稿は検討していない。
なお、本稿では「ライセンス」を独占的実施権のみを指す用語に理解しているが、適切ではない。また、実施権がある場合、特許権の準共有者に対して影響を与えないかのごとき記述があったが、大きな誤解であろう。
特許法改正により、特許権が移転等した場合にも、移転前に設定された通常実施権は、登録なくして、特許権の譲受人に対して対抗できる(特許法99条)点の指摘が抜けている。
また、職務発明(特許法35条)について、対価の点の検討が抜けていた。職務発明の対価についての分担などをどのようにするかは1つの問題である。
また、本稿では、独占禁止法上の取扱いの検討がされていない。
一方的に知的財産の成果物を委託者に帰属させるのは、優越的地位の濫用に該当する(優越的地位濫用ガイドライン)。
また、公正取引委員会によれば、下請代金支払遅延等防止法にも違反する場合があると解されている。
また、情報交換が独占禁止法(不当な取引制限または、不公正な取引方法)に該当するかが問題となる場合がある。
有限責任事業組合契約に関する法律についての記述は、おおむね妥当であろう。
本稿では検討されていないが、大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律も問題となる。

「9 企業間提携契約と継続的契約」
本稿は、平井宣雄教授、内田貴教授の学説を検討している。しかし、中田裕康教授に依拠しているとしつつ、中田教授の見解を紹介していないのは、学説上のプライオリティを遵守していない。
無償契約について補償を要するとの見解は、やや違和感を覚える。例えば、有償委任の場合の解除の損害賠償、役員の解任の場合の損害賠償のような事例は、いずれも、有償契約が前提だからである。もっとも、例えば、無償使用貸借契約のように、事前に予告期間を置くべきとするのは、賛同したい。ただし、企業間で、全くの無賞という事例は想定するのは困難だが。
履行利益と信頼利益の区別がよくできていないようである。ただし、平井宣雄教授、内田貴教授ともに、両者の利益を峻別する通説に批判的である。そして、裁判例も、必ずしも、両者の利益の名称にとらわれずに、具体的事案に応じて、相当因果関係のある損害の場合に限って、損害賠償を認めているのではないかという一部の学説の指摘もある。
資生堂事件、花王事件の最高裁判決においては、継続的契約の打ち切りについて、「やむを得ない理由」は必要ないが、「正当な理由」は必要であると解されている。
某週刊誌が鉄道会社を批判する記事を掲載したところ、当該掲載号から、鉄道会社での売店での当該週刊誌の販売打ち切りをしたため、雑誌会社が鉄道会社に継続的契約の地位にあるという仮処分を起こして、結局、契約を継続する和解で終了した事件があるが、そのような指摘が抜けていた。
下請代金支払遅延等防止法が関係する場合には、下請代金支払遅延等防止法を遵守すべきである。この点の指摘が抜けていた。
また、継続的契約について、企業間であれば独占禁止法、(事業者と消費者間では特定商取引法、消費者契約法なども)が問題となる。この点の検討も弱いようである。