早わかり中国特許:第32回 中国特許民事訴訟の基礎 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第32回 中国特許民事訴訟の基礎

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

2014年 3月 21日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2014年1月号掲載)

 第32回 中国特許民事訴訟の基礎

 

1.概要

 第31回に引き続き中国における特許民事訴訟について解説する。

 

2.仮処分の申請

 侵害行為により直ちに侵害行為を停止しなければ、回復しがたい損害を蒙る場合は、人民法院に対し、提訴前の侵害行為停止(以下、「仮処分」という。)の申請を行うことができる。

 仮処分は、2000年にTRIPS第41条第1項[1]の規定を受けて、専利法第66条に新設された。専利法第66条第1項は以下のとおり規定している。

 

専利法第66条第1項

 特許権者又は利害関係者は、他人が特許権侵害行為を実施しているか、又は実施しようとしており、それを直ちに差止めないと、自分の合法的権益が回復し難い損害を蒙ることを証明できる証拠を持っているときは、提訴前に、人民法院に関連行為の停止命令措置を講じるよう申立てることができる。

 

(1)申請の手続き

 仮処分の申請は管轄権を有する人民法院に対して行う(司法解釈[2001]第20号第2条)。

 申請書には、当事者及び基本的状況、申請の内容、範囲及び理由等を記載する。特に申請の理由として、合法的権益が回復しがたい損害を蒙ることの具体的な説明を記載しなければならない(司法解釈[2001]第20号第3条)。また、特許が有効であることの証拠を提出しなければならない(司法解釈[2001]第20号第4条)。これは例えば特許証、特許明細書及び年金納付領収書等である。

 

 また、実用新型特許権または外観設計特許権に関しては、無審査で登録された権利であることから、特許が有効であることを担保すべく、専利法第61条第2項に規定する特許権評価報告の提出が必要になると考えられる。その他、イ号製品の特定及び請求項に係る発明とイ号製品との技術的特徴の対比説明が必要となる。

 

 ただし、仮処分を命じられた側が逆に不測の損害を蒙る恐れもあることから、申請に際しては、申請人は担保を提供しなければならず、担保を提供しない場合、当該申請は却下される(専利法第66条第2項)。担保の額はイ号製品の販売収入及び仮処分を命じられた側の損失等を総合的に勘案して決定される(司法解釈[2001]第20号第6条)。

 

 後に特許が無効となった場合、または、特許権侵害とならないことが明らかとなった場合等、申請人の仮処分の申請に誤りがあったと認定された場合、逆に申請人が、被申請人の関連行為の停止により受けた損失を賠償しなければならない。従って、特許の有効性がある程度高く、かつ、特許権侵害であることが明らかな場合に限り、仮処分の申請を行うことが賢明といえよう。

 

(2)裁定処理

 人民法院は申請を受理した後、48時間以内に裁定しなければならない(専利法第66条第3項)。このように申請が受理された後は速やかに仮処分が行われる。ただし、特別な事情があって延長する必要がある場合は、さらに48時間延長することができる。人民法院が十分な審理を行わないまま仮処分命令が下されることを防止し、慎重な判断を期すべく、さらに48時間の延長を認めたものである。人民法院は、裁定の審理において必要があると認めた場合、当事者を呼び出して尋問を行う場合もある(司法解釈[2001]第20号第9条)。

 

(3)裁定の執行

 人民法院は、関連行為の差止め命令を下すと裁定した場合、直ちに執行しなければならない。ただし、人民法院が差止め命令に係る裁定をなした場合、申請人は、15日以内に人民法院に対し本訴として特許権侵害訴訟を提起しなければならず、提起しない場合、人民法院は当該裁定を解除する(専利法第66条第3項及び第4項)。このように15日以内に本訴である特許権侵害訴訟を提起しなければならないことから、実務上は仮処分の申請準備と共に、特許権侵害訴訟の準備、具体的には訴状の起案、委任状の手配等を同時に進めておくことが重要である。

 

 仮処分の被申請人は裁定の結果に従わなければならず、当該裁定に違反した場合、民事訴訟法第111条の規定に従い、拘留、罰金等の刑事的責任を負う事になる(司法解釈[2001]第20号第15条)。

 

(4)裁定に対する不服申立て

 当事者は裁定に不服がある場合、一回の再審議を申請することができる。再審議は、裁定を受け取った日から10日以内にしなければならない。ただし、再審議を申請したとしても、裁定の執行は停止されない(専利法第66条第3項、司法解釈[2001]第20号第10条)。

 

(5)仮処分の傾向

 専利法第66条によれば、「現実の実施」、及び、「回復し難い損害」がある場合に仮処分を認めることとしているが、司法解釈では、侵害の蓋然性が高いこと、回復し難い損害、申立人の提供した担保及び公共の利益を総合的に考慮して仮処分を認めるか否かを決定すると規定されている(司法解釈[2001]第20号第11条)。

 

 仮処分は迅速に特許権者を救済するものであるが、その一方で後に特許が無効または非侵害と判断された場合、被申立人が不測の損害を蒙る場合もある。そのため申立人の担保及び公共の利益等をも考慮することとしているのである。

 

 最高人民法院が公表した統計によれば、2012年に申し立てされた仮処分は27件とそれほど数が多いわけではない。ただし、仮処分の裁定を認めた率は83.33%と依然として高く、明らかな侵害であるといえ、かつ、早急な差し止めが必要な場合は、本訴と共に仮処分の申請を行うことが重要である。

 



[1] TRIPS協定第41条第1項

「加盟国は、この部に規定する行使手続によりこの協定が対象とする知的所有権の侵害行為に対し効果的な措置(侵害を防止するための迅速な救済措置及び追加の侵害を抑止するための救済措置を含む。)がとられることを可能にするため、当該行使手続を国内法において確保する。このような行使手続は、正当な貿易の新たな障害となることを回避し、かつ、濫用に対する保障措置を提供するような態様で適用する。」

 

 

 

→続きは、月刊ザ・ローヤーズ2014年1月号をご覧ください。




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