映画の著作物、その1、定義、著作者・著作権者 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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映画の著作物、その1、定義、著作者・著作権者

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映画の著作物

第1 映画の著作物の定義 (中山信弘『著作権法』84頁)
1、著作権法の規定
映画の著作物は、著作権法で著作物として例示されている( 著作権法10条1項7号)。
「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする(著作権法2条3項)。
2、ゲームソフトが映画の著作物に含まれるか
映画の著作物に特有の要件として、物への固定がある(2条3項)。
ゲームソフトが映画の著作物に含まれるかという論点がある。ゲームでは、プレーヤーの操作によりゲーム内容が変わり得るので、固定されているかが争点となった。
裁判例で争点となった当時、無断で複製されたゲームソフトを用いて営業していたゲームセンター・ゲーム喫茶に対して、著作権侵害を主張するために、映画の著作物にだけ認められていた上映権侵害を主張するしかなかったという事情があった。(注)私見では、現在では、複製権や上映権や著作者人格権の侵害、みなし侵害(113条)、プログラムの著作物の侵害などを主張できると思われる。
最高裁平成14・4・25民集56巻4号808頁は、ゲームソフトを「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物である。」ことを理由に、映画の著作物として、認めた。
通説(中山信弘『著作権法』84頁など)は、ゲームソフトが映画の著作物であることを肯定する。
しかし、渋谷達紀『著作権法』57~59頁、69~70頁は、ゲームソフトを映画の著作物ではなく、著作権法の例示外の著作物であり、上記最高裁の事案は現在では譲渡権の消尽(26条の2第2項1号4号5号)で対処できると解している。

第2 映画の著作物の著作者・著作権者
著作権法は、著作者を「著作物を創作する者」(2条1項2号)として、創作者が原始的に著作権を帰属する創作者主義を採用している(17条)。なお、職務著作(著作権法15条)は、使用者を著作者としているので、概念上は創作者主義の変形ともいえよう(中山信弘『著作権法』196頁)。
 著作者が著作権を譲渡した場合(61条1項)、財産権である著作権は承継人に移転するが、著作者人格権は著作者に残る(59条)。
 これに対して、映画の著作物は、著作権法15条・29条2項3項が適用されない限り、創作者である監督等が著作者となり(16条)、著作者人格権が残るが、創作者ではない映画製作者が原始的に著作権者となる点で(29条1項)、創作者主義の例外である。
 29条1項の立法趣旨は、多額の投下資本を必要とする映画について、権利の一元的な集中により権利行使できるようにしたものである(中山信弘『著作権法』197頁)。
 29条2項は、放送番組について、15条の適用されない限り、放送権、有線放送権、公衆送信権、公衆伝達権(29条2項1号)、放送物を複製し、複製物を他の放送事業者に頒布する権利(同条項2号)のみが放送事業者に帰属する。
 29条3項は、有線放送事業者は、有線放送番組について、15条の適用されない限り、有線放送権、公衆伝達権(29条3項1号)、有線放送物を複製し、複製物を他の放送事業者に頒布する権利(同条項2号)のみが有線放送事業者に帰属する。

以下の者が映画の著作者に該当するかが問題となる。
・職務著作(15条)
・映画の著作物の著作者(16条)(著作者人格権)と映画製作者(著作権法2条1項10号)の著作権(29条)、
・未編集フィルムの著作者、

まず、職務著作(15条)に該当するかが問題となる。職務著作に該当する場合には、著作者・著作権者ともに、使用者となる。なお、映画の著作物と同時にプログラムの著作物に該当する場合には、公表名義を要件としない15条2項が適用される。
(職務上作成する著作物の著作者)
第15条1項  法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2  法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

次に職務著作に該当しない場合、16条と29条が適用されるかが問題となる。

 映画製作者とは「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいう(著作権法2条1項10号)。 映画の製作する意思を有し、そのための経済的リスク(収入・支出)を負担し、権利義務の主体となる者であると解されている(中山信弘『著作権法』196~197頁、渋谷達紀『著作権法』114頁、知財高判平成18・9・13、東京地判平成17・3・15[グッバイ・キャロル事件]、東京地判平成15・4・23[角川書店事件]、15・1・20[超時空要塞マクロス事件])。
映画製作を発注して代金を支払っただけの者は、映画の製作者に該当しない(大阪地判平成5・3・23、渋谷達紀『著作権法』114頁)。

(映画の著作物の著作者)
第16条  映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。
(注)クラシカル・オーサーとは、「映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者」である。音楽の著作物などは、契約で定めるなどの例外を除き、原則として、映画の著作者に帰属することはない。したがって、29条により、映画の著作物の原著作物の著作権は、原著作者に帰属したままである。映画の著作物は、原著作物の二次的著作物である。
例えば、小説を映画化した場合には、映画の著作物は、小説の二次的著作物となる(27条)。映画の著作物には頒布権(26条)が認められている。原著作物の著作者は二次的著作物についても、同様の権利を有する(28条)。そのため、原著作者(クラシカル・オーサー)の権利の及ぶ範囲が問題となっている。小説の著作者にも、原著作物の創作的表現が現れている部分に限りで、映画の著作物について頒布権があると解されている(中山信弘『著作権法』132~134頁、279~280頁)。
モダン・オーサーとは「映画の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」である。

第29条  映画の著作物(第15条第1項、次項又は第3項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。
2  専ら放送事業者が放送のための技術的手段として製作する映画の著作物(第15条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権のうち次に掲げる権利は、映画製作者としての当該放送事業者に帰属する。
一  その著作物を放送する権利及び放送されるその著作物について、有線放送し、自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行い、又は受信装置を用いて公に伝達する権利
二  その著作物を複製し、又はその複製物により放送事業者に頒布する権利
3  専ら有線放送事業者が有線放送のための技術的手段として製作する映画の著作物(第15条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権のうち次に掲げる権利は、映画製作者としての当該有線放送事業者に帰属する。
一  その著作物を有線放送する権利及び有線放送されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利
二  その著作物を複製し、又はその複製物により有線放送事業者に頒布する権利

第3 映画の著作物の完成時期
東京高判平成5・9・9(上告審、最高裁平成8・10・14)(三沢市勢映画事件)
未編集フィルムは映像著作物であっても映画の著作物ではなく、映画監督者に著作権が帰属する。
未編集状態のフィルムが映画の著作物でないとすれば、著作権法は創作者主義を取っているので、他の著作物と同様に、創作者が著作者となる。映画の著作権を映画製作者に一元的に集中させる著作権法29条の趣旨は、権利の一元管理により多額の投下資本の回収を容易にするものであり、未使用・未編集状態のフィルムの著作権を映画製作者に帰属させる必要性はない(中山信弘『著作権法』89頁、渋谷達紀『著作権法』114~115頁)。プログラムの著作物を開発委託した場合のように、事前に契約で対処すべきであろう(中山信弘『著作権法』89頁)。
ただし、上記東京高判に対する反対説(作花文雄『詳解著作権法(第2版)』)208頁、田村善之『著作権法(第2版)』(2001年)394頁)も多い。内藤篤『エンタテインメント契約法(改訂版)』(2007年)は、上記東京高裁判決は慣習に反すると述べる。


第4 著作者と映画製作者(著作権者)が異なる場合
1 著作者の報酬
 著作者(映画監督)が映画製作者との間で、著作者が条件をつけ、条件と異なる著作権の行使について、別途報酬を請求できるかという問題があるが、著作者と映画製作者が締結した報酬支払契約の解釈によって決まる(東京高判平成10・7・13)。
2 著作者人格権
2-1 公表権(18条)
 渋谷達紀『著作権法』115頁は、映画の著作物の著作者は失敗作について公表しないように、著作権者に申し入れることができると解しているが、18条2項3号の例外があることの指摘が抜けている。
2-2 氏名表示権(19条)
 著作者は、氏名表示権(19条1項)に基づいて、映画に著作者の氏名を表示させるように申し入れることができる(渋谷達紀『著作権法』115頁)。
2-3 同一性保持権(20条)
 渋谷達紀『著作権法』115頁は、著作者は、映画の著作物について、テレビ放送用の編集について、同一性保持権に基づいて苦情を申し入れることができると解しているが、20条2項4号による利用の目的・態様などによる「やむを得ない改変」の例外の指摘が抜けている。
2-4 名誉声望保持権(113条6項)
 著作者は、いかがわしい映画との併映を拒否したりできる(渋谷達紀『著作権法』115頁)。

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