インド特許法の基礎(第6回)(1):特許出願 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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インド特許法の基礎(第6回)(1):特許出願

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インド特許法の基礎(第6回)(1)

~特許出願(2)~

2014年1月10日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 安田 恵

 

1.はじめに

 インドは、パリ条約[1]及び特許協力条約[2]の加盟国である。従って、パリルート又はPCTルートによるインドへの特許出願が可能である。以下、パリルート及びPCTルートの特許出願に求められる基本的な要件を確認し、優先権書類、出願権の証拠に関する実務的な運用について説明する。

 

2.条約出願

(1)主体的要件

 通常の特許出願と同様、条約出願を行おうとする者は、発明者又はその譲受人等である必要があり(第135条(1),第6条)、その者が外国人である場合、相互主義を採用する国民であることが必要である(第134条)。また、条約出願の出願人は以下のいずれかに該当する必要がある。

・条約国[3](第2条(1)(d),第133条)において特許出願を行った者

・その者の法律上の代表者

・その者の譲請人

 

(2)客体的要件

(a)基礎出願(第135条(1))が存在することが要件である。基礎出願とは、条約国においてされた特許出願である。

  また、実務的には、条約出願の時点において基礎出願が取り下げられることなく、現に特許庁に係属していることが求められる可能性がある点に留意すべきである。条約出願の時点で基礎出願が取り下げられていたことを理由に優先権が否定されたケースが存在する[4]。パリ条約における優先権は、パリ条約の同盟国に正規の国内出願を行うことによって発生するものであり(パリ条約4条A(2))、正規の国内出願とは、結果のいかんを問わず,当該国に出願をした日付を確定するために十分なすべての出願をいう(パリ条約A(3))。「結果のいかんを問わず」とは、出願が国内官庁によって拒絶され、あるいは第三者の介入によって効力を失わされたり、さらには出願人自身によって取り下げられ放棄されたときでも、正規の出願であることを失わないことを意味する。[5]従って、パリ条約上、条約出願の時点において基礎出願が特許庁に係属していることが優先権主張の要件とはされないと考えるべきである。しかし、上述の通り、インド特許実務上、条約に反した取り扱いを受ける可能性があるため、何らかの事情で基礎出願を取り下げる必要があったとしても、無用な争いを避けるという観点から、条約出願の時点まで基礎出願を存続させておくことが望ましい。

 (b)条約出願に添付する完全明細書に記載されたクレームは、基礎出願において開示された事項を基礎とすることが要件である(第135条)。その他の客体的要件は、通常の特許出願と同様である。また、インドにおいても、いわゆる複数優先(第135条(2),第137条)、部分優先(第136条(2))が認められている(パリ条約4条F,H)。

 

(3)時期的要件

 特許を受けようとする者は、最先の基礎出願の日から12ヶ月以内に特許出願を行わなければならない(第135条(1))。複数優先の場合は、最も先の基礎出願の日から12ヶ月以内に特許出願を行う。

 

(4)手続的要件

(a)出願時の提出書類

 特許を受けようとする者は、通常の特許出願と同様、願書(第7条(1),様式1)、完全明細書(第136条(1)(a),規則13(1),様式2)、外国出願に関する陳述書及び誓約書(第8条,規則12(1),様式3)、発明者である旨の宣言書(第10条(6),規則13(6),様式5)、委任状(第127条,規則135(1),様式26)、手数料(第142条,規則7)を提出する必要がある。条約出願においては、仮明細書を提出することができず、完全明細書を願書に添付しなければならない(第136条(1)(a))。なお、外国出願に関する陳述書及び誓約書,発明者である旨の宣言書,委任状は出願後であっても所定の期間内であれば提出することができる。

 

(b)優先権の申立

 願書には、通常の特許出願の記載事項に加え、

(ア)   基礎出願の出願国、出願番号、出願日、出願人の名称、発明の名称等の書誌的事項(第136条(1)(b),様式1)

(イ)   「出願人はその日(優先日として主張する日)前に条約国において当該発明に係る特許出願を一切行ったことが無い旨」の宣言(第136条(1)(c))

(ウ)   優先権主張の申立(様式1)

を記載する。

 

 具体的には、上記(イ)の宣言、及び(ウ)の申立は、以下の記載例のように行う。

Declaration by the applicant(s):

I/We, the applicant(s) hereby declare(s) that:-

-                      The application or each of the applications, particulars of which are given in Para 5[6] was the first application in convention country/countries in respect of my/our invention.

-                      I/we claim the priority from the above mentioned application(s) filed in convention country/countries and state that no application for protection in respect of the invention had been made in a convention country before that date by me/us or by any person from which I/we derive the title.

 

(c)優先権書類

 出願人は、長官から要求されたときは、基礎出願の明細書等であって、長官の納得するように認証されたものの写しを、その要求の通知日から3ヶ月以内に長官に提出しなければならない(第138条(1),規則121条)。以下、当該写しを優先権書類[7]という。また基礎出願の明細書等が英語以外で記載されており、長官から要求されたときは、当該明細書等の翻訳文であって、宣誓供述書又はその他の方法によってその真正性が証明されたものを長官に提出しなければならない(第138条(2))。

  ところで、優先権書類及び明細書等の翻訳文は、条文上、長官から要求されたときに提出すべきものであると解される。しかし、長官からの要求が無い段階で、インドの現地代理人から優先権書類及び翻訳文の提出を促されることがあり、疑問に思う出願人も少なく無い。優先権書類の提出は必須であるが、翻訳文に関しては、必ずしも要求されないとも考えられる。特許の新規性及び進歩性を判断する際に優先権の有効性を確認する必要が無ければ、基礎出願の翻訳文は不要だからである。

 しかし、ほぼ全ての条約出願について、基礎出願の翻訳文が要求されているのが現状である。従って、インド現地代理人によっては、長官から要求される前段階で基礎出願の翻訳文を提出している。例えば、条約出願を行う際、又は条約出願後、数ヶ月以内に基礎出願の翻訳文を提出している。条約出願時においては、出願人も基礎出願の明細書と、条約出願に添付された完全明細書の関係を十分に理解しているため、基礎出願の翻訳文を効率的に用意することができるためである。また、前倒しで基礎出願の翻訳文を提出することによって、翻訳文の提出期限である3ヶ月を徒過する危険性を回避することができる。期限内に優先権書類が提出されなかった場合、優先権主張は無視される(準用規則21(3))。規則21(3)には「出願人の優先権主張は法の適用上無視される」(the claim of applicant for the priority shall be disregarded for the purposes of the Act)と記載されているが、審査官は優先権の主張を認めないという判断を下すだけでは無く、願書から優先権の申立に関する記載を削除するよう求めてくる。結果として、出願人自ら、優先権の申立に関する記載を願書から削除することになるため、仮に特許が認められたとしても、後に優先日の利益を争うことが困難になる。例えば、侵害訴訟における無効主張に対して、優先権主張の有効性を争うことが難しく、特許の有効性を争う上で不利になるおそれがある。こうした観点から、前倒しで優先権書類の翻訳文も提出することが望ましい。

 

(d)出願権の証拠について

 出願権の譲受人が特許出願を行う場合、例えば、従業員が完成させた発明について会社が特許出願を行うような場合、基本的には出願権の証拠を提出しなければならない(第7条(2))。しかし、明確な根拠は無いが、運用上、基礎出願の出願人と、条約出願の出願人が一致していれば、出願権の証拠の提出を省略することができる。基礎出願が条約国において受理されていることから、基礎出願の出願人が出願権を有しているものと推定されていると考える。

 

(5)条約出願の効果

 完全明細書に記載されたクレームの優先日は、基礎出願の出願日となる(第135条(1))。複数優先の場合、1 又は2 以上の基本出願において開示された事項を基礎とするクレームの優先日は,当該事項が最初に開示された日となる(第137条(2))。

 


[1] インドは1998年12月7日にパリ条約に加盟した。

[2] インドは1998年12月7日にPCTに加盟した。

[3] S.O.562(E)

[4] DRAFT MANUAL OF PATENT PRACTICE AND PROCEDURE THE PATENT OFFICE, INDIAの項目5.3.5で特許出願番号986/CAL/79が例示されている。

[5] パリ条約講話 第12版,P116

[6] 第5パラグラフに基礎出願の書誌的事項を記載している例である。

[7] 特許協力条約において「優先権書類」の用語は、「第八条の規定により先の国内出願又は国際出願に基づく優先権の主張を伴う場合には、当該先の国内出願又は国際出願を受理した当局が認証したその出願の謄本」と説明されている(PCT規則17.1)。


(第6回(2)へ続く) 

 
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