試用期間中の従業員に問題があるとき - 労働問題・仕事の法律全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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試用期間中の従業員に問題があるとき

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試用期間中の従業員に問題があるとき
 
1 試用期間の法的性質

(1)最高裁昭和48年12月12日大法廷判決、民集第27巻11号1536頁、三菱樹脂事件
一、企業が特定の思想、信条を有する労働者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。
二、労働基準法3条は、労働者の雇入れそのものを制約する規定ではない。
三、労働者を雇い入れようとする企業が、その採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることは、違法とはいえない。
四、企業が、大学卒業者を管理職要員として新規採用するにあたり、採否決定の当初においてはその者の管理職要員としての適格性の判定資料を十分に蒐集することができないところから、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨で試用期間を設け、企業において右期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権を留保したときは、その行使は、右解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解すべきである 。
すなわち、企業が、大学卒業者を管理職要員としての適格性の判定資料を試用期間における調査・観察に基づく最終的決定を留保する趣旨・目的に照らして、企業において試用期間中に当該労働者が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権の行使は、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される 。

(2)最高裁昭和54年7月20日・民集第33巻5号582頁、大日本印刷事件
(同旨、最高裁昭和55・3・30判例時報968-114、電電公社近畿電報局事件)
一 大学卒業予定者が、企業の求人募集に応募し、その入社試験に合格して採用内定の通知を受け、企業からの求めに応じて、大学卒業のうえは間違いなく入社する旨及び一定の取消事由があるときは採用内定を取り消されても異存がない旨を記載した誓約書を提出し、その後、企業から会社の近況報告その他のパンフレツトの送付を受けたり、企業からの指示により近況報告書を送付したなどのことがあり、他方、企業において、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかつたなどの事実関係のもとにおいては、企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であって、誓約書の提出とあいまって、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用解雇事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。
二 企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。
三 企業が、大学卒業予定者の採用にあたり、当初からその者がグルーミーな印象であるため従業員として不適格であると思いながら、これを打ち消す材料が出るかも知れないとしてその採用を内定し、その後になって、右不適格性を打ち消す材料が出なかつたとして留保解約権に基づき採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用にあたるものとして無効である。

(3)最高裁平成2年6月5日・民集第44巻4号668頁、神戸弘陵学園事件
一 労働者の新規採用契約においてその適性を評価し、判断するために期間を設けた場合には、右期間の満了により右契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。
二 試用期間付雇用契約により雇用された労働者が試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段異なるところはなく、試用期間満了時に本採用に関する契約書作成の手続も採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、当該雇用契約は解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。

(4)試用期間において、会社と労働者との間では労働者が職員として不適格であると認めたときは解約できる旨の解約権が留保された労働契約が締結されていると考えられる。
 そして、会社は労働者の雇い入れそのものについては広い範囲の自由を有するけれども、いったん労働者を雇い入れた後はその地位を一方的に奪うことはできない。
 つまり、試用期間といえども、企業と労働者の間には労働契約が成立しているのである。から、本採用拒否は「採用拒否」ではなく「解雇」にあたり、本採用拒否をすることができるのは解雇の場合と同様に極めて限定された場合ということになる(労働契約法16条)。

2 試用期間に関する就業規則等の定め
(1) 就業規則等の試用期間の延長の定め
① 就業規則や労働協約等に、
・試用期間が設けられた目的・趣旨、
・試用期間の期間と解約権留保、
・試用期間延長の可能性・延長事由、延長期間が定められていること、
・それらが合理的内容であること
が必要である(労働契約法7条、12条、13条)。
② 試用期間の合理的な期間の就業規則の定め
試用期間の長さは、「一定の合理的期間の限定」が必要である(三菱樹脂事件最高裁判決)。
企業統計によれば、企業の99%が試用期間は6か月以内と定めている。
なお、試用期間を1年以上など長期間に定めた就業規則の定めを無効とした裁判例もある。あまりにも長期間の試用期間は、労働者にとって地位が不安定になり不利益を与えると解されるからである。

3 試用期間を延長したいとき
 試用期間の定めは労働者の事業場における労働条件に大きな影響を与え不利益を及ぼすものであるため、試用期間の延長はこれを必要とする特別の理由のない限り法的に行うことは許されず、また延長の理由は合理的なものでなければならない。さらに、それを告知する形式も明確かつ厳格でなければならないと解されている。

(1) 就業規則等に定められた延長事由によるとき
 就業規則に、試用期間延長の可能性・延長事由、延長期間が定められていること、それらが合理的内容であることが必要である(労働契約法7条)。
 延長事由に該当すれば、原則として、試用期間を延長することができる。
もっとも、就業規則に規定されている延長事由がこれを必要とする特別の理由がないと考えられる場合や社会通念上合理的なものでない場合には、当該就業規則の規定は無効な規定となるので、延長も認められないことになる。

(2) 就業規則等に定めがない事由によるとき
①無効説
そもそも、試用期間の延長が就業規則等に明記されていない場合には、当該労働者と延長の個別の合意をしても、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」(労働契約法12条)と解する代表的学説がある(菅野和夫)。
この考えに従えば、就業規則等に、延長事由などの合理性のある条項を設けておく必要がある。
②限定的有効説
 この場合、試用期間が延長されることは労働者にとって通常想定されていないものと考えられるので、よほどの理由がない限り一方的に延長することは認められないと考えられる。一方的な試用期間の延長により、労働者にとって地位が不安定になり不利益を与えると解されるからである。
この「よほどの理由」の判断においては、
 ・もともとの試用期間の長さが労働者の適格性を判断するのに十分なものであったか、
 ・今回延長しようとする期間がどの程度の長さのものか、延長する理由が客観的に判断できる明確なものであるか、
 ・延長をどうしても必要とするような合理的事情であるか
といった様々な事情が考慮されるものと考えられる。
 例えば、出勤成績が著しく悪いなど客観的に判断できるような事情で、会社としてはどうしても直ちに本採用とするのがはばかられるような場合は、3ヶ月の試用期間を数週間ほど延長してしばらく様子をみることも許される場合があり得る。

4 本採用を拒否したいとき
試用期間の労働関係は、試用期間中に労働者の業務適格性が否定された場合に、使用者が解約し得るという権利が留保されている、解約留保権付き雇用契約と解されている( 最判昭和48・12・12三菱樹脂事件、 最判平成2・6・5)
上記最高裁判例によれば、解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的理由があり、社会通念上相当な場合に許される。
「採用決定の時点で知ることが期待できないような事実」が判明した場合には、解約権の行使が許される。解約権の行使も、解雇である。したがって、解雇権濫用規制に服する(労働契約法16条)。

 「解雇」にあたるとはいっても、試用期間はその期間の勤務状況を見て本採用するか考慮するために設けられているものである。したがって、通常の解雇の場合よりも広い範囲で本採用拒否が認められるとは考えられている。なお、判例上「解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合」という基準が示されている。
 ただし、普通解雇より制限が緩和されることのみを理由に本採用拒否を認めた判例は少なく、本採用拒否が認められる場合と普通解雇が許される場合と同様に考えておいた方が無難であるといえる。
 もっとも、特別な経歴・学歴・職務経験や特殊な専門的技能・資格に着目されて、それを担当する労務の具体的内容として、即戦力として、中途採用されたような場合は、その技能の程度などを見極める試用期間の意義も大きいものであり、採用条件に見合う業務遂行能力が認められない場合に普通解雇よりも緩やかな要件で本採用を拒否することが認められる場合もあると解される。

裁判例で問題となった「事実」として、以下のものがある。
・逮捕歴や公判係属中(上記三菱樹脂事件)
・重要な事実(学歴、職務経験、特殊技能・資格など)についての経歴詐称
・試用期間中の勤務成績不良、勤務態度の不良、非協調性
・業務遂行能力の不足

5 本採用を拒否する際の手続
 誤解されやすい点ではあるが、試用期間中であっても、14日間以内である場合には即時解雇が可能であるが、
14日間を超えて引き続き雇用されている場合には、即時解雇ができず(労働基準法第20条第1項)
・解雇予告、
・即時に解雇する代わりに予告手当の支払い、
・試用期間満了
のいずれかの措置を取るしかない。

6 裁判
(1)個別労働紛争を解決する裁判手続として、訴訟、仮処分、労働審判がある。
解雇対象者が訴えを提起して、解雇の無効を主張し、裁判所が、解雇は正当な理由のないものであったと判断した場合には、解雇は無効となる。この場合、労働契約はそのまま続いていることになるから、従業員としての地位が確認・保全される。また、実際に稼働していなくとも、従業員であることを前提に解雇日以降の賃金の支払が命じられることがある。
さらに、解雇対象者が解雇の無効までは主張しない場合でも、不当な解雇であったとして、慰謝料、当該解雇によって失った得べかりし賃金(逸失利益)、弁護士費用などの損害賠償を支払うよう命じられることがある。
(2)解雇された者が使用者に請求できる損害賠償など
①従業員としての地位確認
②賃金請求。
③債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求。慰謝料、弁護士費用などが考えられる。ただし、慰謝料については、請求が認容されるかは、賃金相当額が認められた場合には、微妙であろう。

7 試用期間と私傷病休職規定との関係
業務上災害の場合、試用期間であっても、解雇は禁止される(労働基準法19条1項)。
私傷病の場合、労働基準法では解雇は禁止されていないが、実務上、「休職」規定の適用される就業規則等の規定がある事例がある。本来、「休職」は「解雇猶予」の趣旨で設けられているのである。比較的短期間の試用期間中に私傷病で休むのであれば、今後の長期の勤務に耐えられないと解される。この場合には、就業規則等を改定して、試用期間中には、休職規定の適用がないという規定に改めるべきである。

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