中国商標判例紹介:中国における機能性意匠の類否判断(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国商標判例紹介:中国における機能性意匠の類否判断(第2回)

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中国商標判例紹介:中国における機能性意匠の類否判断(第2回)

~最高人民法院による機能性意匠と装飾性意匠の評価~

河野特許事務所 2013年9月27日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

国家知識産権局専利復審委員会

                   再審請求人(一審被告、二審上訴人)

v.

張迪軍

                           再審被請求人(一審原告、二審被上訴人)

  

4.最高人民法院の判断

争点1:外観設計は3つのタイプに分類することができる

 最高人民法院は、如何なる製品の外観設計も通常は2つの基本要素、すなわち機能要素及び美学要素を考慮しなければならないと述べた。つまり、製品は最初にその機能を実現しなければならず、次いで視覚上美観を有していなければならず、大多数の製品は全て機能性及び装飾性の結合ということができる。ただし特殊状況下においては完全に装飾性または機能性のみを有する設計が存在する。従って、設計特徴には、機能性設計特徴、装飾性設計特徴、機能性と装飾性とを共に備えた設計特徴の3タイプが存在すると言える。

 

 ここで、機能性設計特徴は外観設計製品の一般消費者から見た場合に、実現しようとする特定の機能により唯一決定され、美学要素設計特徴を考慮しないものを指す。つまり、ある設計特徴がある種の特定機能により決定される唯一の設計であるとすれば、当該設計特徴は美学要素を考慮する余地は存在せず、明らかに機能性設計特徴に属する。

 

 900特許と先設計とが近似するか否かを判断するに際しては、所謂全体観察、総合判断方法が採用される。つまり、一般消費者の知識レベルを基準とし、両者の相違点が全体的な視覚効果に影響を与えるか否かにより判断する。

 

 機能性設計、装飾性設計、及び機能性と装飾性とを共に備える設計の全体的視覚効果は以下のとおりとなる。

 

 機能性設計特徴は外観設計の全体視覚効果に対し通常は顕著な影響を有さない

 装飾性特徴は外観設計の全体視覚効果に対し一般に影響を有する。

 機能性及び装飾性共に備える設計特徴は全体視覚効果に対する影響はその装飾性の強弱を考慮する必要があり、その装飾性が強ければ強いほど、全体視覚効果に対する影響は相対的に比較的大きくなり、逆であれば相対的に小さくなる

 

争点2:ピン配置の相違は機能性設計に基づく相違である

 900特許と先設計との相違点は以下の2つである。

相違点1 先設計の上部の太柱は矩形凹槽を有するものの本特許は有さない。

相違点2 両者下部のピン位置は相違する。本特許は5つのピンが共に底部の一側面上にあるのに対し、先設計は単に3つのピンが底部の一側面にあるだけであり、その他2つのピンが対向する底部側面に設けられている。

 

(1)相違点1について

 900特許の上部太柱は矩形の凹槽を有さないが、先設計の上部の太柱は矩形凹槽を有する。最初に最高人民法院は、先設計の特許文献中には、必ずしも当該設計が短軸または2軸結合であるか、二軸回転が可能であるか否か、矩形凹槽がどのような作用を有するか等について何ら説明を行っておらず、このような状況下で、先設計の構造及び矩形凹槽の機能を判断することは困難であると述べた。

 

 復審委員会は、軸上に凹槽を設けることは、異なる信号制御機能を実現するためのものであり、当該相違点1は機能性設計特徴であると主張した。そして、参考として名称「2軸エンコーダ」と称する中国実用新案特許を証拠として提出した。しかしながら、当該公報の請求項6に記載された軸芯上の槽の機能は、外部機器との連接に用いられるものであり、復審委員会の主張に矛盾し、また当該実用新案特許の出願日は900特許の出願日よりも後である。以上のことから、最高人民法院は、相違点1が機能性設計であるとする復審委員会の主張を支持しなかった。

 

(2)相違点2について

 相違点2に関しては、900特許と先設計両者の下部のピンの位置が異なる。900特許製品に係るエンコーダスイッチのピン数量は特定されており、その分布は回路基板節点と相対する必要がある。900特許製品の一般消費者からすれば、ピンの配置が底座の一側面上に分布しているか、或いは、2つの相対する側面上に分布しているかに関わらず、共に組み合わされる回路基板のレイアウト需要に基づくものである。

 

 そして、これにより両者の適合及び連接を実現できることから、最高人民法院は、ピン配置自体については、必ずしも美学要素が存在しないと述べた。以上のことから最高人民法院は、相違点2は機能性設計特徴であり、本特許製品の全体視覚効果に必ずしも顕著な影響を与えないと判断した。

 

争点3:900特許と先設計とは近似する

(1)相違点2

 最高人民法院は、上述したとおり相違点2については、機能性設計特徴であり、美学要素を考慮する余地はなく、900特許と先設計の全体視覚効果に対し顕著な影響を与えないと判断した。

 

(2)相違点1

 相違点1(太柱の矩形凹槽)は、機能性設計特徴ではないが、最高人民法院は、エンコーダスイッチ上部の柱上に矩形凹槽を設けないものは一種の普通のありふれた設計であると判断した。最高人民法院はこの判断にあたり復審委員会が提出したエンコーダ図が記載されている日本ALPS公司(2006スイッチ/エンコーダ)商品カタログ図171頁~194頁を参照した。

 

 最高人民法院は、凹槽を有する先設計に対し、逆に凹槽を有さない普通のありふれた設計であり、全体視覚効果に対し、顕著な影響を有さず、本特許が先設計に対し、全体視覚効果上明確な差異を有していると認めるには足りないと判断した。以上の理由により、最高人民法院は900特許と先設計とは近似すると結論づけた。

 

 

5.結論

 最高人民法院は、900特許と先設計とが近似するとした復審委員会の判断を支持し、両設計が近似しないとした北京市第一中級人民法院及び北京市高級人民法院判決を取り消した。

 

 

6.コメント

 本事件では物品に表現された設計が機能性設計と装飾性設計との双方を具備する場合に、機能的設計は外観設計同士の対比において全体視覚効果に対し影響を与えないと判断された。この場合、装飾性設計部分に着目して近似するか否かが判断される。

 

 本事件においては先設計に近似するか否かという特許要件を判断する上での判断基準が示されたが、外観設計特許と被疑侵害製品とが類似するか否かについても同様の基準が、司法解釈に示されている。

 

 2009年に公表された司法解釈[2009]第21号第11条は以下のとおり規定している。

 

司法解釈[2009]第21号第11条

 人民法院は、外観設計が同一または類似するか否かを認定する際、登録外観設計、権利侵害と訴えられた設計の設計的特徴に基づき、外観設計の全体的な視覚的効果をもって総合的に判断しなければならない。主に技術的機能により決定される設計的特徴及び全体的な視覚的効果に影響を与えない製品の材料、内部構造等の特徴については、これを考慮すべきではない

 

 すなわち、外観設計特許と被疑侵害製品との装飾性設計が同一または類似であれば、被疑侵害製品との相違点として機能性設計特徴が存在したとしても類否判断の要素とはされず、特許権侵害が成立することとなる。このように、権利行使時には機能性設計特徴に対する判断基準は特許権者に有利に作用すると言える。

 

 逆に、本事件のように外観設計特許の有効性が争われた場合、相違点としての機能性設計特徴部分は評価されないこととなるので、無効宣告請求人側に有利に作用することとなる。特許権者側または訴えられた側いずれかの立場に応じて柔軟に機能性設計特徴についての議論を行う必要があると言える。

以上

 

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