知識を武器に

先日、風立ちぬを見に行きました。すべての効果音が人の声で作られていると聞いていたので、どんな雰囲気の映画になるのだろうと楽しみに席にすわりました。

音響も楽しかったのですが、映画では沢山の要素が提供されていて「あぁ、夢の中にいるみたい」「天才ってこんな精神構造なのかな」「ものごとを突き詰めて行く人は静かで力強いな」「女性のけなげな姿ってかわいい！」など、いろいろな思いが頭の中を駆け巡る不思議な時間を過ごしました。

その後、新聞、テレビ、インターネットで風立ちぬについて多くの意見を目にしました。特に多く語られているのがタバコのシーンのことで、賛否両論いろいろな意見がでています。もちろんタバコは体に良くないし、結核の妻の横で吸うなんてもってのほかです。けれど、私はこのシーンを妙に納得してみていました。というのも、私の人生の中でもこのシーンに重なる場面が多くあったからです。

タバコが体に多くの害をもたらし世間から忌み嫌われるようになったのはここ十年くらいではないかと思います。以前は、公共の場で当たり前のようにタバコは吸われていたし、タバコを吸っていることがかっこいいとさえ思われていました。子供が咳をしている横でタバコを吸っていたお父さんも多かったのではないかと容易に想像できてしまいます。世間がタバコに対して肯定的だったのは「タバコに中毒性があり、体を酸化させ老化を促進し、煙の有害物質が細胞を傷つけるため癌をはじめ多くの疾患を引き起こす原因となる」という知識がなかったからです。普通に考えれば煙を吸う行為が体に良い訳がないのだけれど、不思議な事に世界中の人たちがそのことに気づいていませんでした。

で、私が風立ちぬで問題にされているあのシーンを目にした時、「そうそう、知らないでやっちゃうんだよね。奥様のそばに少しでもいたいんだよね」って妙に納得してしまったのです。

私がひどい妊娠中毒症（今は妊娠高血圧症といいます）になったとき、浮腫、高血圧、蛋白尿、いきぎれ、動悸、加えてひどい便秘で体から糞臭がするほどになりました。それでも私は普通に分娩ができると思っていたし、生活改善の仕方もわからないからしなかったし、自宅でとはいえ仕事もしていたし、夜更かしもしていました。甘いものやトンカツを食べたのも覚えています。成長期に運動のしすぎた時、私の腎臓は悲鳴をあげました。ドクターに「日常の生活は大丈夫だけど、妊娠出産の際は管理が必要」と言われた意味をしっかり理解していれば、このようなひどい生活はしなかったと思いますし、もしかしたら妊娠中毒症であんなに辛い思いはしなかったかもしれません。

風立ちぬの主人公がもしタバコについて知識を得ていたら、私が妊娠と腎臓の働きについて知識があったら、人生におけるあらゆる場面の小さな選択肢の選び方が違っていたと思います。主人公はタバコを止め奥様にもっと寄り添えていたかもしれません。私は日常的に腎臓を守る生活習慣を身につけ安全な出産をして産後の体が楽な分、赤ちゃんの可愛さをもっと味わえていたかもしれません。長い人生の小さな選択が積み重なりが、大きな結果という形で私たちに幸も不幸ももたらすよい例です。

私は鍼治療ではじめてお会いする患者様には必ず「知識は自分を守るために武器になります。これから不妊治療、健康、体について沢山知識を得てください。そうすることでひとつひとつの岐路で良い選択ができ、よい結果に結びついて行きます。」とお話ししています。「よい結果」が、妊娠なのか、健康な体なのか、落ち着いた精神なのか、すばらしい自律神経のバランスなのか、それら全てなのかはわかりません。でも、知識を得て損をすることは決してないと思います。

不妊治療という非常に高度な、難しい、そして多大な労力とお金と時間をかけてうけていく医療に身を委ねるのですから、しっかり知識という武器を身につけ、納得いく結果に結びつけて行きたいです。

私たちスタッフは、患者様みなさまが知りたい情報をできるだけ発信できるよう、不妊カウンセラーの資格をとり、日々知識を積み上げています。ぜひ、その知識をフル活用してやろう！という気合いでアキュラにいらしてください。スタッフ一同、襟をただしてお待ちしております。

鍼灸師　草薙　久美子