インド特許法の基礎(第4回)(2):第8条(外国出願に関する情報の通知)に関する判例 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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インド特許法の基礎(第4回)(2):第8条(外国出願に関する情報の通知)に関する判例

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インド特許法の基礎(第4回)(2)

~第8条(外国出願に関する情報の通知)に関する判例~

 

河野特許事務所 2013年9月10日 執筆者:弁理士  安田 恵

 

 

4.検討

 

(1)外国出願に関する情報通知の重要性

 

 本件では、第8条違反の取消理由と共に進歩性等の実体的な取消理由も争われていた。しかし、外国出願に関する情報の提供という、いわば事務的な手続きの不作為を理由に、特許が取消理由を有すると判断され、特許発明の実体的側面の審理が行われること無く、特許権の行使が否定された。

 

 

 外国出願に関する情報の通知という簡単な手続きではあるが、第8条が要求する情報の通知を怠ると、簡単に特許の有効性が否定されるという点、出願人は十分に留意すべきである。

 

(2)様式3の提出時期

 

 出願人は、外国出願に関する最新の明細事項を特許付与日まで随時(“from time to time”)長官に通知しなければならない(第8条(1)(b))。そして、裁判所は、外国出願の最新の状態をインド特許庁長官に定期的に通知すべきとしている。

 

 しかし、裁判所が言う定期性”periodicity”の意味は必ずしも明確では無い。ところで、外国出願の明細事項の提出期限として規則12条(1)において“出願日から6ヶ月”,規則12条(2)において“他の出願に係る詳細について長官に通知すべき期間は,当該出願日から6月”と規定されている。遅滞なく、随時外国出願に関する情報を通知すべきと考えるのであれば、規則12条に規定された”6ヶ月”という期間が,外国出願に関する明細事項を更新して長官に通知すべき周期であると解釈することができる。 

 

 一方、第8条(1)の趣旨が、“ペンディング状態にある外国出願の進捗を長官に通知し続けることを出願人に義務付けることによって、最新の情報に基づく的確な特許付与を促進することができる”点にあるとすれば、審査官が審査を開始するタイミングで、最新の明細事項を通知すれば足りると考えることもできる。審査官が最初の審査報告の段階で、第8条(2)の詳細を要求してくることを考えると、最初の審査報告に対する回答を行う段階で、更新された外国出願の明細事項を提出すれば、的確な特許付与の促進に十分応えることができる。実際、インドへの出願から6ヶ月経過した後に更新された明細事項の提出を、最初の審査報告に対する回答を行う際に行うという実務も多く行われている。

 

 

(3)外国出願に関する明細事項の内容(第8条(1))

 

 様式3の状態”status”欄に記載すべき情報として、原告は、ペンディング、許可、放棄等の情報である旨を主張したが、裁判所によって否定されている。明細事項の通知の趣旨が、最新の情報に基づく的確な特許付与を促進する点にあるとすれば、インドへ出願した発明の特許性審査に影響を与え得る拒絶理由通知、補正等が外国で行われていた場合、8条(2)に基づいて要求される外国出願の詳細と共に、明細事項の”status”欄にもこうした情報を記載することが望ましい。

 

 

(4)外国出願の詳細(第8条(2))

 

 外国出願の詳細を要求された場合、特許査定された外国出願の詳細のみならず、拒絶された外国出願の詳細も提出すべきである。裁判所は最初の審査報告に記載された”including”の意味を広く解釈し、拒絶された外国出願の詳細も提出すべきと判示した。第8条の趣旨が、外国出願の情報に基づく的確な審査にあるとすれば、妥当な結論である。

 

(5)その他(提出書類の取捨選択)

 

 第8条(2)の要求に従って提出する書類は一般的に膨大なものである。全ての外国出願に関する情報を漏れなく全て提出することは出願人に大きな負担であり、適宜、提出書類の取捨選択が行われている。

 

 第8条が規定された1970年代はともかく、IT化が進む昨今、PCT出願でインドを指定する出願の場合、審査官は主要な指定国の出願の詳細を入手することができると推測できるが、外国出願に関する明細事項及び詳細を、出願人に要求している。外国出願を出願人に要求すること自体は条約(Trips協定29条(2))も認めており、現在のインド特許法では、外国出願の情報提供を出願人に義務付ける第8条が規定され、第8条違反を取消事由としている。

 

 このため、インターネットで外国出願に関する情報を入手できることを理由に、外国出願に関する情報の提出を省略すべきでは無い。

 

 長官は、特許出願に法令違反があった場合、出願を拒絶することができるが、拒絶しなければならないという規定にはなっておらず(第15条)、特許の有効性を保障しない旨が条文上、明記されている(第13条(4))。つまり、最初の審査報告において外国出願に関する明細事項(第8条(1))及び詳細(第8条(2))が要求されるが、審査報告に対する回答によって、特許が認められたとしても、第8条の要件を満たした有効な特許であるという保障は無い。出願人は、審査結果に基づいて、第8条の要件を遵守したか否かを判断すべきでは無く、自己の責任において、第8条(1)及び(2)が要求する必要な情報を取捨選択し、インド特許庁に提出すべきか否かを判断すべきである。

 

                                                                    以上

 

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