中国特許判例紹介:中国における閉鎖式請求項の権利範囲解釈 (第3回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における閉鎖式請求項の権利範囲解釈 (第3回)

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中国特許判例紹介:中国における閉鎖式請求項の権利範囲解釈 (第3回)

~不純物または補助物質が含まれている場合の権利範囲解釈~

河野特許事務所 2013年7月25日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

泰盛製薬有限公司、特利爾分公司

                          再審請求人(一審被告、二審上訴人)

v.

胡小泉

                           再審被請求人(一審原告、二審被上訴人)

 

(2)請求項2の権利範囲解釈

 続いて、最高人民法院は請求項2の権利範囲を分析した。

 

 請求項2は“由……組成”の閉鎖式請求項を採用し、限定を加えている。上述した審査指南に基づけば、当該請求項の保護範囲は、請求項により限定された成分組成だけを含み,他の成分を含まないこととなる。ただし不純物を含む事ができ,当該不純物は通常の含量をもって存在することが許される。従って,請求項2の保護範囲は、注射用二ナトリウムアデノシン三リン酸塩化マグネシウムフリーズドライ粉注射液中,二ナトリウムアデノシン三リン酸及び塩化マグネシウムと、通常含量の不純物を含むものであり、その他の成分は含まれないこととなる。

 

 最高人民法院は原告が審査過程において提出した補正書及び意見書の内容に着目した。原告は,国家知識産権局がなした第二次審査意見通知書に対し、明細書及び請求項を「主要成分は二ナトリウムアデノシン三リン酸及び塩化マグネシウムの組成からなる」と補正しようとした。つまり「主要」の文言を用い、閉鎖式請求項から半閉鎖式請求項への変更を試みたのである。しかし、新規事項追加(専利法第33条規定違反)に該当するとして、当該補正は許可されなかった

 

 原告は、半閉鎖式請求項への補正を維持することなく、結局閉鎖式請求項の内容にて特許を取得した。以上のことからすれば、原告は半閉鎖式請求項を採用したとは言えず、特許付与後の特許侵害訴訟において,特許請求項2が再び半閉鎖式と主張するのは、上述した客観事実に相反し,禁反言の法理にも反する

 

 以上のことから、最高人民法院は、請求項2は明らかに閉鎖式請求項であり、請求項2に記載した2つの成分と不純物とに限られると述べた。

 

(3) イ号製品が特許請求項2の技術的範囲に属するか否か

 最後に、最高人民法院はイ号製品が請求項2の技術的範囲に属するか否かを判断した。

 

 イ号製品の有效成分は二ナトリウムアデノシン三リン酸及び塩化マグネシウムであり,該成分及びその成分比率は共に特許請求項2と同一である。しかしイ号製品は調製過程において2種の補助原料を追加している。すなわちアルギニン及び重炭素ナトリウムである。

 

 pH調節剤としての重炭素ナトリウムは最终生成物において中和されるが,安定剤としてのアルギニンは依然として最生成物中に存在する。《薬剤補助原料大全》、《薬用補助原料応用技術》の記載に基づけば,医薬領域中の補助原料は多種多様であり,アルギニンはその中の一種であり,一般に薬物調合剤中の安定剤に用いられる。最高人民法院は、イ号製品を調製する過程において、被告が一定の比率に基づきアルギニンを物調合剤に添加したものであり,アルギニンは必ずしも通常の意義での不純物とは言えないと判断した。

 

 このように、イ号製品に添加されたのは補助原料であるアルギニンであり,この種の補助原料が現有技術中既に知られた通常の補助原料であろうとなかろうと,それは必ずしも二ナトリウムアデノシン三リン酸及び塩化マグネシウムに伴う通常の不純物ではない。イ号製品は特許請求項2中の二ナトリウムアデノシン三リン酸及び塩化マグネシウムを含む以外に,さらにアルギニンを有する。以上のことから、最高人民法院は、イ号製品は特許請求項2の保護範囲に属さないと判断した。

 

 さらに原告は、イ号製品は請求項2に対し、均等論上の侵害が成立すると反論した。最高人民法院は、均等論は、特許権者が請求項を記載する際に、侵害者が将来取り得る侵害方式を予見することを事実上できないことから、文言上の保護範囲のみならず、実質的な変化がない範囲にまで権利範囲を拡張し、特許権者の合法権益を保護し,特許制度全体の作用を維持するものであると述べた。

 

 従って、均等論は特許請求の範囲の記載がおろそかである場合に、技術特徴の追加を許すものではない。原告が、請求項中採用したのは“由……組成”の閉鎖式表現方式であり,それ自体特許権者はその記載を通じて,特許権の保護範囲を限定したことを意味し,明確にその他の限定していない構造成部分または方法ステップを特許権の保護範囲外に排除したことを意味する。

 

 本案において,特許請求項2は閉鎖式請求項に属し,それ自体使用している借用語は既に二ナトリウムアデノシン三リン酸及び塩化マグネシウム以外の成分を特許権保護範囲外に排除している。従って、最高人民法院は、特許権者が明確に排除しながら、再びイ号製品と請求項2とが均等とするのは,均等論の基本目的に符合しないことから、均等論上も侵害は成立しないと結論づけた。

 

 

5.結論

 最高人民法院は、補助物質を含むイ号製品が請求項2の技術的範囲に属するとした中級人民法院及び高級人民法院判決を取り消した。

 

 

6.コメント

 本事件ではイ号製品の補助物質が閉鎖式請求項における不純物と言えるか否かが争点となった。不純物に該当するか否かは各事件により相違するが、開放式請求項、閉鎖式請求項または半閉鎖式請求項であるかが明確となるよう請求項及び明細書を作成しておく必要がある。

 

 また中国出願時において翻訳された請求項が、発明者が意図するとおり開放式請求項、閉鎖式請求項または半閉鎖式請求項のいずれに翻訳されているかを確認しておくことが重要となる。

 

以上

 

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