『シネコラ(3)「桜、ふたたびの加奈子」』を執筆後、佐村河内さんの作品のCDをいくつか聴き、書籍(「交響曲第一番 闇の中の小さな光」幻冬舎文庫)を読むなどをしていました。
どうやらこのコラムでも彼については改めて取り上げるべきだと思っています。
今回は前回の続きで映画と音楽について書きたいと思います。
この映画の脚本と監督である栗山実さんと音楽の佐村河内守さんとは本作品からの出会いではなく十数年来の交流があります。
本作の撮影の半年前、2011年の終わりに佐村河内さんの新作CD「シャコンヌ ~ 佐村河内守弦楽作品集」をリリースするという話しを聴いた時、栗山監督は「きっとこの映画に合うはずだという確信があった。」と語っています。
栗山監督は佐村河内さんの自宅を訪ねて曲を聴きながら、脚本について、映像について、この映画についてを語り合い、時には議論をしながら撮影の準備を進めました。
脚本執筆中の監督はしばしば佐村河内さんの音楽に聴き入ったという。
「映画に合わせて音楽が作られるという方法もあるが、音楽にインスパイアされて映画ができ上がっていくという面も重要で、僕にはそれがあっていると思う。」
このような経緯を経て映画のための音楽『組曲「桜、ふたたびの加奈子」』の譜面が出来上がりました。
劇中、弦楽四重奏で演奏される不協和音が通奏低音のように流れています。
映画を観ている時点では私は佐村河内さんの音楽についてそれほど詳しくなかったので現代的な作曲技法を多用する作曲家だと思っていたのですが、どうやらそうではないらしい。
詳しくは後日のコラムで述べたいと思います。
通奏低音のように流れていた不協和音から、まるで雨空の隙間から一筋の陽の光がさすように長調の美しい響きが顔を見せます。
これは暗く悲しいストーリーの中での希望の光を表しています。
栗山監督は佐村河内さんの
「闇が深ければ深いほど、一筋の明かりが美しく見える」
という音楽に対する思いに深く共感していると語っています。
この言葉、そして佐村河内さんの音楽がこの作品の世界観とまさに一体となっています。
組曲「桜、ふたたびの加奈子」の演奏は大谷康子と大谷康子弦楽四重奏団がおこないました。
大谷さんは言わずも知れた名ヴァイオリニスト。
東京交響楽団のソロ・コンサートマスターを務め、また国内外の多くのオーケストラでソリストとして共演しており、世界で活躍している素晴らしい演奏家です。
二人の出会いは佐村河内さんが作曲した「交響曲第1番『HIROSHIMA』」を東響で演奏したのがきっかけ。
佐村河内さんの音楽についての熱い情熱を知る大谷さんは多忙を極める中、映画の音楽の演奏を快諾し、収録がおこなわれました。
【桜、ふたたびの加奈子】
監督・脚本・編集:栗村 実
原作:新津きよみ「ふたたびの加奈子」
音楽:佐村河内守弦楽作品集より「桜、ふたたびの加奈子」組曲
作曲:佐村河内 守
演奏:大谷康子、大谷康子弦楽四重奏団
(大谷康子、田尻 順、青木篤子、西谷牧人)
このコラムの執筆専門家
- 成澤 利幸
- (長野県 / 音楽家、打楽器奏者)
- 成澤打楽器音楽教室
音楽はみんなのもの
楽器の演奏は専門家からのちょっとしたアドバイスによりスムーズに上達したり音楽の奥深さに触れることがあります。ドラムやマリンバ、いろいろな打楽器のレッスンを通して皆さんのお力になれればと思います。
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