婚姻費用分担の家事調停・審判 - 家事事件 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

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対象:民事家事・生活トラブル

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婚姻費用分担の家事調停・審判

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○婚姻費用分担

 夫婦の以下の要素を考慮して、家庭裁判所が定める。

・資産

・収入

・職業

・社会的地位

・未成年の子がいる場合の養育費

・その他一切の事情など。

 

 家庭裁判所の現在の実務では、調停・審判ともに、権利者(婚姻費用の支払いを求める者)、義務者(支払いを求められた者)それぞれの収入を、定形的な婚姻費用分担表・養育費算定表に基づいて、職業(給与所得者、自営業者の区別)に応じて、算出している。例外的に特別な事情がある場合に、増額が認められる。

 

 

○管轄

 以下の家庭裁判所で、調停・審判の管轄が認められる。

 夫婦のいずれかの住所地、

子がいる場合(子が複数いる場合には、そのうちの1人の子)の住所地

合意管轄

なお、調停では申立人住所地で調停申立てができないと記述している書籍を見かけたが、誤解であろう。

 

○実務での運用

 調停でも審判でも、ある程度一律に上記の算定表に基づいて算定し、例外事情を認めないことが多い。特別事情として認められるのは、子が学費の高い大学等に進学したような場合である。

 子供の世話、障害等で十分に働けないという事情は、すでに収入に反映されているとして、特別事情としては取り扱っていないようである。

 また、浪費等が原因で借金返済があるという事情は、家族に対する扶養義務が一般債権に優先することを理由に、婚姻費用・養育費の減額すべき正当な理由にならないとした事例もある。

 住宅ローンについては、借家住まいの場合と均衡を取るために、考慮の対象としないとした事例もある。例えば、住宅ローンを支払っている夫について、住宅ローンを減額の考慮要素として取り扱うと、借家に住んでいる妻が家賃を支払っているのと不公平になるからである。

 

○離婚調停とともに申立てた場合

離婚調停とともに婚姻費用分担調停を申立てた場合には、両者の申立ては併合される(家事事件手続法255条4項、49条3項)。離婚に関する紛争の抜本的解決を図るために、調停が回を重ねて、婚姻費用分担について、なかなか結論が出ない。これは過去の婚姻費用の精算を財産分与に含めて行うことができる(最高裁昭和53・11・14)ためである。調停成立に際しては、「調停条項以外には、夫婦間にそれ以外の債権債務がない」という条項を入れるのが通例である。この条項がある場合には、婚姻費用の請求を別途しても認められないであろう。

 離婚について相互に納得している夫婦の場合には、離婚調停中であっても、調停委員からのすすめにより、離婚成立までの間、暫定的に任意に合意して支払額を定めて送金させるという運用もある。

 

○婚姻費用分担の調停・審判のみの場合

これに対して、婚姻費用分担調停だけの場合には、源泉徴収票などの基礎資料があれば、算定表どおりの額を調停委員がすすめ、調停期日が1,2回で協議がまとまらずに、調停不成立とされることが多い。

審判に移行した場合でも、当事者の陳述を聴取する期日を1回開いただけで(家事事件手続法68条。当事者の申し出がある場合には審問期日)、直ちに審理を終結し(家事事件手続法71条)、例外事情を認められずに、算定表どおりの結論の審判になることが多い。

なお、審判確定前までは、婚姻費用分担調停申立ての取下げはできるが、審判後の申立ての取下げには、相手方の同意が必要である(家事事件手続法82条2項)。また、2回期日に欠席すると、申立てを取下げたとみなされる(家事事件手続法83条)。

婚姻費用分担の審判に対して、夫または妻から、即時抗告はできる(家事事件手続法156条1号、3号)。ただし、よほどの例外事情がないと、抗告審でも、審判の結論は変わらないことが通例である。

 

○婚姻費用分担義務の範囲

 調停の実務では、離婚に至らない別居中の夫婦が調停により、例えば、調停申立て以降の婚姻費用として、毎月金○円を支払う旨の調停条項を取り決める場合がある。これは、必ずしも過去の婚姻費用の精算を否定する趣旨ではなく、離婚に際して、過去の婚姻費用の精算を財産分与の中で考慮してよい。

ただし、調停申立て前のかなり前からの婚姻費用だと、証拠が散逸していたり、一括で高額の支払いを請求されても義務者が事実上支払えないケースもある。下級審の古い裁判例では、婚姻費用の請求または調停申立て以降しか婚姻費用の分担を認めなかった事例もあるが、法律的に請求できないとまで断定したといえるか疑問であり、上記のような実際上の要素も考慮されたのであろう。上記の最高裁判例にしたがえば、過去の婚姻費用についても財産分与として、請求できると解するべきであろう。

また、将来の婚姻費用分担について、転勤等で別居を余儀なくされている場合などは認められる。

婚姻関係が実質的に破綻した後の婚姻費用については、有責配偶者の側は支払い義務を免れないであろうが、両当事者ともに婚姻破綻について責任がないケースでは微妙であろう。

 

 また、離婚を希望する当事者の一方が、

生活費や養育費のために婚姻費用分担調停の申立てをする通常の場合だけでなく、

離婚の希望を相手方に納得させる便法として使うようなケース(別居しているのに、相手方の生活費まで面倒をみなければならないとすると、別居が長期間になると、離婚したほうが金銭面だけから見れば、得策な場合もあり得る。ただし、不貞行為をした当事者が婚姻費用分担調停を申立てた事案で、信義則に反するとして、請求を認めなかった裁判例もある。)、

離婚の際の金銭給付を有利にするために調停申立てするケース

も散見される。

 

また、過去の分は財産分与で考慮されるとしても、当面の別居中の生活費・養育費に困窮する場合には、調停の申立てをすみやかに行うべき実際上の要請も多いであろう。

 

○調停前・審判前の保全処分

 例えば、夫と別居して子と同居し監護している妻の場合には、婚姻費用分担について、早く結論を出してもらいたいところではあるが、離婚調停中の場合には、離婚原因に争いがあったり、別居したのは監護親に非があるなどと主張されたりして、夫から、婚姻費用を支払ってもらえない場合もある。

このような場合には、調停前・審判前の保全処分を申立て、家庭裁判所に養育費を含む婚姻費用の支払いを命じてもらい、支払いを受けることが可能である。

 

○離婚訴訟に移行した場合

 離婚訴訟において付随処分である財産分与に含めて婚姻費用の請求をしてもよい。

 また、婚姻費用分担は、離婚訴訟と一体ではないので、別途、離婚訴訟の判決が確定する前までに、婚姻費用分担調停を申立てることが可能である。

ただし、離婚請求を認容する訴訟の判決で財産分与を定めた場合、婚姻費用の点について、二重請求である、あるいは確定判決の効力によって遮断されると解される可能性が強い。

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