会社分割と詐害行為取消権 - 会社分割・企業再編 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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会社分割と詐害行為取消権

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債務整理

会社分割と詐害行為取消権


・ 最2小判平成24・10・12民集 第66巻10号3311頁、金融・商事判例1402号16頁、ジュリスト平成24年度重要判例解説75頁、107頁

株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割をする株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる。


1 本件は,Aに対する債権の管理及び回収を委託されたXが,Aが所有する不動産(以下「本件不動産」という。)を新設分割によりYに承継させたことが詐害行為に当たるとして,Yに対し,詐害行為取消権に基づき,その取消し及び本件不動産についてされた会社分割を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 Xは,債権管理回収業に関する特別措置法2条3項に規定する債権回収会社である。
 Bは,平成12年,Cに対し,5億6000万円を貸し付け(以下,同貸付けに係る債権を「本件貸金債権」という。),Dは,Bに対し,本件貸金債権に係る債務を連帯保証した(以下,同連帯保証に係る保証債務を「本件保証債務」という。)。
Bの本件貸金債権は、最終的にFに対し譲渡され,Fは,Xに対し,本件貸金債権の管理及び回収を委託した。債権譲渡時点における本件貸金債権の元本の残高は約4億5500万円であり,その後,これが弁済されたことはない。
Aは,平成16年,Dを吸収合併し,本件保証債務を承継した。
 Aは,平成19年9月1日,株式会社であるYを新たに設立すること,
AはYに本件不動産を含む第1審判決別紙承継権利義務明細表①記載の権利義務を承継すること,YがAにYの発行する株式の全部を割り当てることなどを内容とする新設分割計画を作成し(以下,同新設分割計画に基づく新設分割を「本件新設分割」という。),同年10月1日,Yの設立の登記がされ,本件新設分割の効力が生じた。
本件新設分割により,YはAから一部の債務を承継し,Aは上記承継に係る債務について重畳的債務引受けをしたが,本件保証債務はYに承継されなかった。
Aは,平成19年10月12日,本件不動産について,同月1日会社分割を原因として,Yに対する所有権移転登記手続をした。
 Aが本件新設分割をした当時,本件不動産には約3300万円の担保余力があった。しかし,Aは,その当時,本件不動産以外には債務の引当てとなるような特段の資産を有しておらず,本件新設分割及びその直後に行われたGを新たに設立する新設分割により,Y及びGの株式以外には全く資産を保有しない状態となった。
3 原審は,新設分割は財産権を目的とする法律行為であり,会社法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者については詐害行為取消権の使が否定されるべき理由はなく,その効果も訴訟当事者間において相対的に取り消されるにとどまり会社の設立自体の効力を対世的に失わせるものではないとして,新設分割は詐害行為取消権行使の対象になり得ると判断した上で,上記2の事実関係の下において,本件新設分割は詐害行為に当たるなどとし,Xの請求を認容すべきものとした。
4 所論は,会社の組織に関する行為である新設分割は民法424条2項にいう財産権を目的としない法律行為であり,また,新設分割を詐害行為取消権行使の対象とすると,新設分割の効力を否定するための制度として新設分割無効の訴えのみを認めた会社法の趣旨に反するほか,会社法810条の定める債権者保護手続の対象とされていない債権者に同手続の対象とされている債権者以上の保護を与えることになるなどとして,新設分割は詐害行為取消権行使の対象にならないというのである。
5 新設分割は,一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることであるから(会社法2条30号),財産権を目的とする法律行為としての性質を有するものであるということができるが,他方で,新たな会社の設立をその内容に含む会社の組織に関する行為でもある。財産権を目的とする法律行為としての性質を有する以上,会社の組織に関する行為であることを理由として直ちに新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできないが(大審院大正7年10月28日判決・民録24輯2195頁参照),このような新設分割の性質からすれば,当然に新設分割が詐害行為取消権行使の対象になると解することもできず,新設分割について詐害行為取消権を行使してこれを取り消すことがきるか否かについては,新設分割に関する会社法その他の法令における諸規定の内容を更に検討して判断することを要するというべきである。
まず,会社法その他の法令において,新設分割が詐害行為取消権行使の対象となることを否定する明文の規定は存しない。また,会社法上,新設分割をする株式会社(以下「新設分割株式会社」という。)の債権者を保護するための規定が設けられているが(会社法810条),一定の場合を除き新設分割株式会社に対して債務の履行を請求できる債権者は上記規定による保護の対象とはされておらず,新設分割により新たに設立する株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)にその債権に係る債務が承継されず上記規定による保護の対象ともされていない債権者については,詐害行為取消権によってその保護を図る必要性がある場合がある。
ところで,会社法上,新設分割の無効を主張する方法として,法律関係の画一的確定等の観点から原告適格や提訴期間を限定した新設分割無効の訴えが規定されているが(会社法828条1項10号),詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても,その取消しの効力は,新設分割による株式会社の設立の効力には何ら影響を及ぼすものではないというべきである。したがって,上記のように債権者保護の必要性がある場合において,会社法上新設分割無効の訴えが規定されていることをもって,新設分割が詐害行為取消権行使の対象にならないと解することはできない。
そうすると,株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,民法424条の規定により,詐害行為消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては,その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができる。
6 以上によれば,本件新設分割が詐害行為取消権行使の対象になるものとして,Xの請求を認容した原審の判断は,是認することができる。

[解説]
1、平成17年改正前の旧商法、従来の判例との関係
 最判昭和39年1月23日・民集 第18巻1号87頁は「旧商法141条の規定は詐害行為の取消に関する一般規定たる民法424条の特則として規定されたものであり、したがつて商法の右規定の適用または準用(平成17年改正前の旧商法147条、有限会社法75条1項)ある会社についての詐害設立取消には、民法の右規定を適用する余地はない」と判示していた。上記の大審院の判例は、上記旧商法の前の旧旧商法に関する事案であり、この大審院の判例を覆すために、旧商法141条が立法された経緯がある。したがって、旧商法では、詐害行為取消権を適用する余地はなかった。
詐害行為取消権は、債権者が知ってから2年の消滅時効、詐害行為の時から20年の除斥期間があるので、法律関係の早期の画一的処理を図る必要があるというのが、旧商法141条の立法趣旨であった。
また、会社分割について、旧商法の会社分割の立案担当者は、分割無効の訴えによるべきで、詐害行為取消権を適用すべきではないという見解であった(原田晃治「会社分割法制の創設について(下)」商事法務1566号8頁)。同様の理由で、旧商法の下で、東京地判平成17・12・20金判1924号58頁も否認権行使を否定した。

2、会社法の規定
会社法は、新設分割につき、開示、債権者保護手続(会社法810条1項2号)、新設分割無効の訴え(会社法828条1項10号)により、債権者保護を図っている。分割無効について、法律関係の画一的処理・取引の安全の要請から、その主張方法を訴えに限定し(会社法828条1項)、提訴期間を6か月に限定し(会社法828条1項10号)、無効判決に対世効を認め(会社法838条)、将来に向かって効力を生じるとした(会社法839条)。
しかし、会社法は、持分会社についてのみ、832条2号で、詐害行為取消権の特則を設けている。会社法の立案担当者は、異議手続対象外の債権者は、詐害行為取消権によるとの見解であった(相澤哲『立案担当者による新・会社法の解説』別冊商事法務295号202頁)。
したがって、本判決は、上記最高裁昭和39年判決(なお、正確に言えば、昭和39年最高裁判決は旧商法に関するもので、会社法についてではないから、判例変更の手続をとる必要はない。)や会社法の規定に反せず、むしろ会社法が規定していない点について、判決したものと評価できる。

3、詐害行為取消権の効果
詐害行為取消権は相対効(大判明治44・3・24民録17輯117頁)であるから、新設分割会社の設立には、影響をおよぼさないとするのが、本判決の立場である。

4、詐害行為取消権を行使できる債権者の範囲
本判決は「新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者」は,詐害行為取消権を行使できる債権者とされたが、これが詐害行為取消権を行使できる債権者の範囲を限定する趣旨なのかは、必ずしも明確ではないという評価(弥永、片山・ジュリスト平成24年度重要判例解説))もあるが、本判決から見る限り、上記の債権者に限定する趣旨と思われる。

5、詐害行為取消権の行使方法
詐害行為取消権の行使方法として、分割が取消の対象となるか(下記③~⑥判決)、それとも、分割を原因とする財産移転行為が取消の対象となる(相澤哲『論点解説新・会社法』674頁)か、あるいは、その両者が取消の対象となる(本件最高裁判決、下記⑦判決)のか、争いがある。
また、会社分割を取消す必要はなく、価格賠償を命じるのを原則とするべきとの論者もいる(上記・片山・ジュリスト平成24年度重要判例解説)が、妥当ではない。詐害行為取消権は、被保全権利の範囲でのみ行使できるとするのが最高裁判例であり、詐害行為取消権の目的物が被保全権利の価格を超える場合には価格賠償によるとするのが最高裁判例( 最高裁昭和36年7月19日大法廷判決・民集15巻7号1875頁、 最判昭和54年1月25日・民集33巻1号12頁など)である。
本判決の事案は、目的物の不動産の価格よりも、被保全債権の額が大きかった事案であり、分割会社の唯一の資産であった。したがって、本判決が会社分割を取消すことができるとし、かつ、資産の承継も取消した(本件不動産のAへの所有権移転登記を命じた)のは妥当である。
なお、会社分割に詐害行為取消権の適用を肯定した他の下級審裁判例では、価格賠償が命じられているが、詐害行為取消権の目的物が被保全権利の価格を超える場合(例えば、新設分割会社の資産総額が被保全権利の債権額を上回る場合)には価格賠償によるとする最高裁の判例理論にしたがえば、その結論は妥当である。


[参照条文]
会社法789条1項2号、840条1項2号
会社法828条1項10号、2項9号10号
会社法789条5項但し書き、810条5項但し書き
会社法759条2項3項、764条2項3項、789条1項2号3項


[詐害的な会社分割について、債権者を保護した判例・裁判例]

・詐害行為取消権、民法424条
肯定した判例
最高裁平成24年10月12日判決・民集 第66巻10号3311頁 (原審である大阪高判平成21年12月22日金法1916号108頁)
株式会社を設立する新設分割がされた場合において,新たに設立する株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割について異議を述べることもできない新設分割をする株式会社の債権者は,詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができる。
そのほか肯定した裁判例、
① 大阪地判平成21・8・26金判1402号25頁(本件第1審)
② 大阪高判平成21年12月22日金法1916号108頁(本件控訴審)
③ 東京地判平成22・5・27判例時報2083号148頁
④ 東京高判平成22・10・27金判1910号77頁(③の控訴審、『会社法判例百選(第2版)』188頁)、
⑤ 名古屋地判平成23・7・22判例時報2136号70頁
⑥ 名古屋高判平成24・2・7判例タイムズ1369号231頁(⑤の控訴審)
⑦ 福岡高判平成23・10・27金法1936号74頁

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