信託の類型 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

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対象:民事家事・生活トラブル

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第4章 信託の類型  

第1 自己信託

1 定義

 自己信託とは、特定の者が一定の目的に従い自己の有する一定の財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為を自らすべき旨の意思表示を公正証書等の書面によって行うものです(信託法3条3号)。つまり、委託者が自己の有する財産を信託財産として、自ら受託者となり、信託を設定することをいいます。

なお、旧信託法下においては、明文の規定がなく、自己信託は認められないと解されていました(新井誠『コンメンタール信託法』12頁)。平成18年改正法は自己信託を認める明文を新設しました。

2 具体的な活用方法

 事業承継における自己信託の活用方法としては、後継者に経営能力がない場合に、第三者に信託せずに、経営者が生前に、ある事業部門を自己信託し、それを後継者に相続させることが考えられます。

 この方法によれば、第三者(受託者)への信託コストが不要になります。また、後述する事業信託を利用する場合の手続上の負担が大きく軽減されます。すなわち、自己信託の場合、信託財産は委託者かつ受託者である本人から隔離されることになりますが、法律上の帰属主体には変更がありませんから事業主体の変更もなく、許認可手続や労使関係の手続が不要になります。また、事業主体の変更がないので、財産の移転や債務の移転を行う必要もありません。ただし、株式会社の場合、会社法の事業譲渡に関する規定の適用があります(信託法266条2項)から、重要な財産の処分に該当すれば取締役会の承認決議が必要になります(会社法362条4項1号)し、事業の全部または重要な一部を自己信託するときは、株主総会の承認決議が必要になります(会社法467条1項1号2号)。この際、反対株主には株式買取請求権が認められます(会社法469条)。しかし、債権者保護手続はありません。

 なお、第三者を受託者として事業信託を利用する場合に起こりうる経営上の秘密等が知られてしまうリスクもありません。

 さらに、信託を設定した段階では、信託財産は同じ法人内で移動しているにすぎないため、課税の心配もありません。

 

第2 事業信託

1 定義

 事業信託とは、事業そのものを積極財産のみならず負債を含め、信託の対象とする信託のことをいいます。

 旧信託法下においては、信託の対象となるものは積極財産に限ると解されていたため、事業信託は認められないと解されていました(四宮和夫『信託法(新版)』134頁)。しかし、平成18年改正法は、「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるもの」(信託法21条1項3号)を信託財産責任負担債務とすることを認めており、信託行為時に、財産の信託と併せて債務の引受をすることができる旨を明文で認めました。

 これにより、積極財産と消極財産の集合体たる特定の事業を信託したのと同様の効果を発生させることができますから、いわゆる事業信託が可能になりました。

2 具体的な活用方法

 事業承継における事業信託の活用方法としては、現経営者が、後継者の経営能力に不安があるものの第一線から退きたい場合に、後継者が育つまでの間、事業を同業者等の経営能力のある第三者に信託し、事業を運営してもらうことが考えられます。

 また、現在、会社の運営が上手くいっていない場合に、事業信託を利用して、経営改善を図り、その上で事業承継を行うことも考えられます。

 ただし、当該事業が「重要な財産」(会社法362条4項1号)に当たれば、取締役会の承認も必要になりますし、当該事業が「事業の全部」(会社法467条1項1号)、「事業の重要な一部」(会社法467条1項2号)に当たる場合は、株主総会の特別決議による承認が必要になります(会社法309条2項11号)。

 また、自己信託を除く事業信託は、事業主体が変更する以上、許認可手続や労使関係の手続も必要になってきます。

 事業信託を利用する場合には、上記のような手続上の負担を覚悟しなければなりません。


第3 限定責任信託

1 定義

 限定責任信託とは、受託者が当該信託のすべての信託財産責任負担債務(受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務)について信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う信託をいいます(信託法2条12項)。つまり、受託者の履行責任の範囲が信託財産に限定されることになります。

 信託財産責任負担債務については、受託者は信託財産のみならず、受託者の固有財産によっても、その履行責任を負うのが原則とされます。しかし、信託に関する債務は信託財産のみから履行することにしても、債権者が予見できれば、債権者保護に欠けることはないと考えられます。

 そこで、平成18年改正法は、信託行為においてそのすべての信託財産責任負担債務について受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨の定めをして、登記をすること(信託法216条、232条)、取引の相手方にその旨を示すこと(信託法219条)、その名称中に限定責任信託という文字を用いること(信託法218条1項)を要件として、信託財産をもって履行すべき債務については、受託者の固有財産は引当てとならないこととしました(信託法217条)。

2 具体的な活用方法

限定責任信託により、リスクの高い事業においても受託者を確保しやすくなるとともに、自己信託において限定責任信託を利用すれば、新規事業が破綻した場合に既存事業に与える影響を遮断し、既存事業を守ることができます。

第4 受益証券発行信託

1 定義

 受益証券発行信託とは、当該信託の受益権につき、1または2以上の受益権を表示する証券(受益証券)を発行する旨を定めた信託のことをいいます(信託法185条)。

 旧信託法においては、受益権についての有価証券化を認める規定は存在しませんでしたが、平成18年改正法は、受益権の有価証券化のニーズに応えて、これを一般的に認めることにしました。

2 具体的な活用方法

受益証券発行信託により、委託者は信託財産を引当てにした証券発行と流通が可能になり、多数の投資家から資金を調達できるようになります。そこで、新規事業を立ち上げるにあたって、当該事業を信託し、多数の投資家の投資を募り、当該新規事業を運営・発展させていくことが可能になります。

 

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