(続き)・・「痛み」を伴うような病気に対しても漢方薬が有効な場合があります。例えば「腰痛」に対しては、西洋医学では先ず痛みの原因を調べますが、多くの場合は特に目立った異常がなく、鎮痛剤や湿布などが処方されます。ところが鎮痛剤には胃の粘膜を障害するという深刻な副作用があるため、2人に1人くらいは胃炎にかかり、中には胃潰瘍を併発する人もいます。強い腰痛に対して麻酔薬を腰部に注射する「ブロック注射」によって驚くほど痛みが和らぐこともありますが、これも根本的な原因治療とはいえません。
漢方では腰痛に対しても、症状とともに体質や経過を重視します。急性の腰痛に対しては「証」を問わず、筋肉の攣縮を抑制する効果のある「芍薬甘草湯」を処方します。これは漢方にしては比較的、迅速な効果が得られます。慢性化した腰痛に対しては証によって処方が分かれます。「実証」でのぼせがち、便秘傾向であれば、余分な熱をとる作用のある「桃核承気湯」が選ばれます。同じく実証で上半身の体温が高いものの下半身が冷える場合には「五積散」が適当とされます。
一方「虚証」で手足の冷えがひどく浮腫みがあり、足のしびれ、排尿困難などが伴う場合には「牛車腎気丸」が処方されます。またこれと共通点のある処方ですが、冷えにのぼせが加わる場合や前立腺肥大の男性などの場合には、「八味地黄丸」がより好まれます。日常診療に於いては、これら漢方薬と上述の西洋薬がしばしば併用され、場合によりブロック注射や温熱療法、鍼灸などと併用することもあります。イメージとしては、漢方薬で筋肉の状態を改善し、西洋薬などで痛み自体を抑えるという役割分担です。
「慢性関節リウマチ」に対しても漢方薬は活躍しています。リウマチは強い関節痛を伴う難治性の病気ですが、「免疫異常」がベースにあるとされています。膝などの痛みに対しては鎮痛剤や湿布、免疫異常に対しては免疫調整剤やステロイドホルモンなど強い薬が処方されますが、効果の割には副作用が深刻であるという問題点があります。長年リウマチに悩まされる方は痛みだけでなく、膝や手指などの関節のこわばりや変形、運動障害などにも苛まれ、さらに薬の副作用にも苦しむという三重苦となっています。
リウマチに対する漢方の考え方は、ベースにある免疫異常や代謝の低下を是正しようとする点にあります。「実証」で関節の熱感が強い場合には、関節の熱を冷まして免疫反応を抑える「薏苡仁湯(よくいにんとう)」が処方されます。また「中間証」で関節液貯留や四肢の浮腫が目立つ場合には、利尿効果もある「防已黄耆湯」が向いています。一方「虚証」でリウマチの経過が長く、関節の変形が著しい場合には、血流を改善し全身を温める作用のある「大防風湯」が良いでしょう・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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