遺留分対策ってどうすればよいの?

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公開日時
2013/11/22 11:40

 遺留分を侵害するとどうなるかは前回お話ししましたが、それでは遺留分対策としてはどのようなことが考えられるでしょうか?

1.遺留分の放棄
 遺留分の放棄被相続人の生前に、家庭裁判所で許可を得ることによって遺留分を放棄してもらうことが可能です(民法1043条1項)。被相続人ではなく、放棄をする相続人自身が家庭裁判所に申立をしなければなりません。尚、生前に相続分を放棄させることはできません。

 放棄者の納得や家裁での許可を得やすくするため、放棄の見返りとして、生前贈与等を行うことが考えられます(贈与税については、条件が合えば相続時精算課税制度を使い、2500万円の特別控除や超過分について20%での課税に留めることが可能です。)。なお、このような見返りを与えておかなければ絶対に家庭裁判所の許可が得られないわけではありません。
※ 一度得られた遺留分放棄の許可について、家庭裁判所は許可を取消すことができると解されていますので、放棄の許可が得られても万全とまではいえません。
※ 遺留分の放棄だけでなく、きちんと遺言をしておかなければ目的は達成できません。

2.除外合意
 中小企業の株式等については、その株式等を遺留分減殺請求の算定基礎財産及びその対象から除外する除外合意(中小企業経営承継円滑化法4条・5条)を相続人から取り付け、経済産業大臣への確認、家庭裁判所の許可を得ることによって、遺留分行使の対象から除外することが考えられます。

 株式等を取得しない者の合意や家裁での許可を得やすくするため、見返りとして、生前贈与等を行うことが考えられますが、このような見返りを与えておかなければ絶対に家庭裁判所の許可が得られないわけではないのは1.と同様です。

3.生命保険の活用
 相続人の遺留分を侵害する事態が避けられないようなら、現預金を使って、主な財産を取得する者を受取人とする生命保険に加入しておくことが考えられます。(1)相続財産を減少させ、遺留分の侵害額を減少させるとともに、(2)遺留分減殺請求がなされても、価額弁償(代わりにお金を支払う)によって、自社株等の重要な相続財産を引き渡さなくても良いようにするためです(民法1041条)。
 受取人にとっては、生命保険金は相続財産ではなく自分の固有財産となり(税務上は相続財産とみなされるものの非課税とされる枠があります。)、死亡後比較的速やかに取得することができますし、(原則として)遺留分算定の基礎財産にならず、遺留分減殺請求の対象にもなりません。

 その他、相続財産に株式が含まれている場合、会社の方で会社を受取人とする生命保険に加入しておき、相続発生後に会社が受け取った生命保険金を自己株式の買取資金として利用することによって、遺留分を侵害しないように相続をさせつつ株式の集中を図ることが考えられます。

~生命保険は、節税対策、納税資金対策としても使えますが、遺留分対策にも使えます!

4.養子縁組
 相続によって財産を取得させようとする相続人の身内を養子縁組によって被相続人の子供にし、遺留分を持つ子供を増やすことにより、減殺請求をすることが予想される相続人の遺留分を相対的に減少させ、遺留分減殺請求の行使を防ぎ、あるいは行使されても価額弁償で対応できるようにします。

5.無議決権株式等の付与
 自社株式については、その一定部分を議決権の無い株式とした上で、会社の後継者ではない相続人にはその無議決権株式を相続させることにより、経営に参加させることなく、遺留分侵害も生じさせないようにすることができます。ただし、総会の特別決議による定款変更や種類株主総会の特別決議が必要となることや、後継者以外の相続人に議決権は無いとしても、株主としてそれ以外の権利を有することには注意しなければなりません。
 また、会社の後継者ではない相続人には「全部取得条項付種類株式」を与えておき、会社の決議でその種類株式を強制的に買い取り、その対価として金銭、無議決権株式、端株を交付することも考えられます。金銭か端株を交付する方法だと、株式を後継者に集中させることが可能ですし、そのための資金についても会社が借入れをすれば利息が経費になると考えられます。ただ、全部取得条項付種類株式の活用も状況によっては簡単に進められない場合が多々ありますし、株式の買取りに際して買取価格についての協議成立が容易ではなく裁判になるケースがあるという面もあります。その他、「取得条項付株式」を利用できる場合もあります。

6.相続株式の売渡請求
 株式に譲渡制限を付している会社では、定款で相続により取得した株式を会社が買い取ることができるよう定めることができ、会社が相続等があったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議に基づき売渡しを請求することができます。会社にとっては自己株式の取得に当たるので財源規制があることや、買取価格についての協議成立が容易ではなく裁判になるケースがあるという点には注意が必要です。

7.遺言書への理由の記載
 遺言書になぜそのような遺言をするのかについて記載し、遺留分減殺請求権者の納得を得るようにします。地道な方法で確実性はありませんが、実際にはかなり有効な場合があります。

※ 遺留分減殺請求の対象の指定
 遺留分減殺請求の対象となる財産が複数ある場合については、その価額の割合に応じて減殺されることになりますが、遺言で、これと異なる意思表示をすることが可能とされておりますので(民法1034条但書)、自社株等については最後に減殺請求するように指定することもできるものと考えられますが、遺留分の侵害額が大きい場合には、結局、減殺請求権行使の対象となってしまいますので、このような場合には有効な方法とはいえません。

〜以上のような対策が考えられるわけですが、そもそも遺留分の侵害があるのか無いのか、侵害額がいくらくらいとなるのか、個別の事例で具体的にどのような対応策が良いのか、については難しい判断が必要となりますから、必ず専門家にご相談下さい! 

このコラムの執筆専門家

酒井 尚土(弁護士)

クーリエ法律事務所 代表弁護士

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相続・税金事件に特に注力しています。遺産分割事件等の相続案件に携わるだけでなく、国税審判官の勤務経験や税理士・ファイナンシャルプランナーの資格を有しており、相続事件・税金事件の処理はもちろん、総合的な相続対策でもお力になります!

酒井 尚土
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