小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ任せられない人ほど要求してくる「権限委譲」
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「権限委譲」とは、管理者が部下に仕事と行動を任せることをいい、うまく行われれば、業務効率や生産性が向上する効果があります。
理想で言えば、組織で公式に決められた職務権限以外の、現場で仕事をする中での業務権限は、その場その場で的確な判断がされることが最も効率的なので、できるだけ多くの仕事が権限委譲されるとよい訳です。これは、組織の上位から末端まで、同じ基準の判断ができれば可能でしょうが、残念ながらなかなかそうは行きません。
ある会社であった話ですが、中堅からマネージャークラスの社員数名が、「自社の権限委譲のしかたに問題がある」と言います。
聞けば、自分たちに権限を与えないせいで、「仕事がスムーズに進められない」「判断に時間がかかる」「臨機応変な対応ができない」など、様々な弊害があるそうです。
問題提起の内容としては確かにあり得ることで、なるほどと思える部分もあります。
その後、この話を担当の部門長に確認してみると、ちょっと困った苦笑いを浮かべながら一言、「彼らには任せられないです」とおっしゃいます。
話を聞くと、権限委譲を求めている部下たちは、“途中経過の報告や相談がない”“大事なことでも自己判断だけで勝手に進める”ということが日常的にあり、そのために、顧客との小さなトラブルや、作業の手戻り、重要な仕事の後回しといった問題がしばしば発生しているそうです。
こうなると、上司の立場としては、途中経過の報告を義務付けたり、上司である自分の判断を仰ぐように指示したり、となりますが、これが彼らにとっては不満なことで、その結果、「権限委譲に問題がある」と言っているとのことでした。
正しく権限委譲をする上でのポイントとして、「誰に何をどこまで任せられるのかを事前に見極めて判断する」ということがあります。中には「みんなに平等に任せる」という人がいますが、これは正しい権限委譲ではありません。経験、能力、本人の資質ややる気などは、その人によって様々だからです。任せる部下の人選はしっかり行う必要があります。
その後、「権限委譲」を求める社員たちに対して、私は「上司が“任せよう”と思うだけの信頼が必要で、信頼されるかどうかは日ごろの行い次第」という話をしましたが、その場ではピンと来ていない様子でした。
自分たちでスピーディーに仕事を進めたいという意欲は買えるので、これからの意識と行動がどう変わっていくかにかかっていますが、まだもう少し時間はかかりそうです。
うまくできれば効果的な「権限委譲」ですが、任せられない人ほど多くを要求してくるような気がします。
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