小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「人事施策」の“企画”と“実行”が縦割りになる弊害
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最近は、人手不足の問題をあちこちの企業から聞きます。
私が関わることが多いIT業界では、技術者不足がかなり顕著で、プロジェクトの体制を組もうにも、なかなか思い通りにいきません。案件はたくさんあっても、やる人がいないという状況です。建設業界の人からも、同じような話を聞きます。
マクロ視点で見た日本の人材動向は、少子高齢化と人口減少で労働力は徐々に減っていきます。そもそも日本人の若者がいなくなっていきますから、今までのように新卒採用で生え抜きを育てるような方法はどんどん難しくなります。これは中途採用でも同様で、少なくても今までのような「業務経験がある30歳前後の若手」などという採用基準は成り立ちません。
不足する人材をどう穴埋めしていくかを考えなければなりませんが、よく言われる女性や高齢者の活躍推進、外国人の登用、ITによる省力化や自動化などの様々な方法を、業界動向や市場動向、自社の状況などによって組み合わせていく必要があります。
やりがいのある仕事内容で、より良い職場環境を整備して、人材を集める競争力をつけることも必要でしょうし、未経験者でも早期に戦力化する育成ノウハウも必要でしょう。そのための投資も必要です。
俗にいう“人事戦略”を、中長期的な視野で総合的に考えなければなりませんが、これは企業規模にかかわらず、どんな会社でも同じです。
しかしこういう話を比較的企業規模が大きい、いくつかの企業の人事部の人たちにしたとき、「それは人事部門の仕事ではない」といいます。
ある会社では「それは経営企画の仕事だ」と言い、ある会社では「役員クラスが考えることだ」と言います。では人事部門が何をするのかと尋ねると、しいて言えば今期来期あたりの採用目標数や研修の企画を決めることぐらいで、中には「現場の要望を集めてそれを実行するだけ」という企業もありました。あくまで現場で作業する実行部隊という認識です。
私は、企業の人事戦略作りとその実行をお手伝いすることがあります。
うまく進めるためには、戦略を立ててそれを実行しながら見直していくことになりますから、戦略の“企画”と“実行”にかかわる人たちが近い距離にいる方が望ましいです。
しかし、そういう体制が取られている企業は、あまり多くはありません。
相応の規模の会社であれば、先に述べたように部門で縦割りにされていますし、小さな会社であっても、社長が指示して担当者はそれを実行しているだけというようなことが多いです。企画部隊と実行部隊は分離されていることがほとんどです。
CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、CIO(最高情報責任者)と同じような位置づけで、人事の責任者をCHO、またはCHRO(最高人事責任者)と呼ぶことがあります。
まだまだ一般に認知されているとは言い難いですが、今後の「人」に関わる戦略の重要性を考えると、全体に目を配る人の存在は、これから必要性が高まってくるでしょうし、私たちがすでにこういう形でご支援するような企業も出てきています。
担当別の縦割りだけでは、「人」に関する課題に対処しづらくなっています。全体を見渡す“鳥の目”と細部をよく見る“虫の目”が、しっかり連携することが必要になっています。
人事の課題には、どんな組織体制で向き合うのかも、よく考えていかなければなりません。
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