小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「自分の経験を教えたい」というコンサルタント希望者の独りよがり
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私が独立して仕事を始めてから、しばらく年月が経ちましたが、同じような仕事のしかたを希望する人や、独立したばかりの人から、コンサルタントという仕事に関して、相談されたり意見を求められたりということがときどきあります。
独立したいという人には、勧めも止めもしませんし、すでに独立した人であれば、素直にうまく行けば良いなと思います。
ただし、その中には例外があり、この人は考え直した方が良いと思うことがあります。
一つは、他人まかせが当たり前と思っている人が独立を考えている場合です。何でも業者頼みで済ませようとしていたり、知人や仲介者など、他人を頼ってどうにかしようということばかり考えていたりするような人には、独立を考え直した方が良いと伝えます。すでに独立した人であれば、まずどんなことでも自分で主体的に関わるように勧めます。
ただ、他人からそう言われたからといって、なかなか変われるものではありません。
さらにもう一つは、「自分の経験を伝えたい、教えたい、それで相手の会社を変えたい」という自分の思いばかりを強く語る人に対してです。
こういう人たちに対して、私は「その思いを捨てられないなら、コンサルタントはやめた方が良い」と伝えます。仕事に信念を持つことは必要ですが、それはコンサルタント個人の独りよがりでもあります。そもそも「教える」などと言っている時点で、クライアントとなる企業にとっては、大きなお世話であることが多いからです。
こういう思いを語る人は、一つの企業で定年近くまで勤め上げた人や、大手企業で専門的な経験を積んできた人、組織を率いていた管理職経験者などが多いですが、もちろんそればかりではなく、いろいろな経歴の人がいます。
この人たちの共通点は、自分の専門分野に関するこだわりや、組織はこうあるべきという“あるべき論”の意識が強いことです。自分の中の基準が明確で、なおかつ確立してしまっています。
しかし、コンサルタントというのは、その会社を変えよう、人を変えようなどと言って、自分から乗り込んでいく存在ではありません。自分基準を持つとともに、その会社が成長していくにはどうすることが早道かと、相手目線で考えて実行することが仕事です。
スポーツのトレーナーのように、相手の体力や技術を見ながら一緒に目標を定め、トレーニングプログラムを一緒に決め、その取り組みをサポートしていきます。全員がオリンピックを目指すようなことは当然ありません。
しかし、自分の思いばかりが強い人は、誰に対しても“自分の理想形”を押し付け、あくまでそれを目指そうとします。そうやって、自分基準に引きずり込んで、結果的に会社の成長を遅らせているコンサルタントを、今まで何人も見てきました。
自分の経験を伝える、教えるためには、必ず“相手目線”が必要です。どんな言い方で、どんなタイミングで、何をすれば受け入れてくれるか、どんな施策なら実行できるか、何をどんなプロセスでやれば効果的かなど、相手の様子を知り、それを見極めて働きかけることが、“自分の思い”よりもよほど重要です。
「自分の経験を教えること」がコンサルタントになりたい理由なら、それが独りよがりになっていないかを再確認する必要があります。
独りよがりがダメなのは、実はどんな仕事でも同じではないでしょうか。
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