小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「自分の常識」は「他人の非常識」かもしれない
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ある飲食店で食事をしていた時のことです。
隣の席にいた初老の男性2人の会話が、なにげなく耳に入ってきてしまったのですが、こんなことを言っていました。
「最近の若い者は、ろくに新聞も読んでいない」
「だから世の中の動きを知らなすぎる」
「手紙の書き方もわかっていない」
「だから言葉を知らない」
などなど。
何かよほどのことがあったのか、それとも日頃からのうっぷんの積み重ねなのかはわかりませんが、お互いにそうだそうだと言いながら盛り上がっています。「常識を知らない者が増えた」「こんなことも教えなければならないとは嘆かわしい」などと言っていました。
この話、私はすべてを否定するつもりはありませんが、ずいぶんと一方的な話だと思いました。特にこの「常識」という言葉が出るような時は、だいたいそんな傾向があります。
「新聞を読め」などと言う話は、私自身の若い頃も年上の人からそんなことを言われ、いちいち言われなくても自分の意志で読んでいましたが、今それと同じことが必要かというと、あまりそうとは思いません。
今はインターネットやスマートフォンをはじめとしたデバイスが普及していて、いつでもどこでも必要な情報は取れます。情報自体の流通も早いですから、常にニュース速報が発信され続けているような状態です。
新聞だって、あえて購読をしていなくても、主要な記事はほとんどネットで読めますし、何紙もの記事を並行して読むことができます。
こうなれば、「新聞を読まないから世の中のことを知らない」などというのは大いなる偏見で、特に情報量ということでは、今の若者の方が、よほど多くのものを持っています。
また、「手紙の書き方を知らない」という話は、私自身も含めて確かにその通りですが、それは手紙を書かなければならない機会が少なく、書く必要もあまりなかったからです。
あるところで聞いた話ですが、若手社員に手紙の投函を頼んだところ、切手を貼らずに出してしまったことがあったそうです。それまで郵便を出すという経験は年に一度の年賀状くらいで、切手を貼るという経験自体がありませんでした。これを非常識と言ってしまえばそれまでですが、手紙がそれほど身近ではない人がいるという一つの証明です。
私は最近、たまたまお礼状を書かなければならない機会が立て続けにあり、実はネットで文例などを調べながら書きましたが、こんなふうに、知らなくても調べるすべがあり、無事に書くことができました。手紙の書き方をわかっていないから、言葉を知らない訳でもありません。
また、一方的な自分の意見ばかりが書かれた手紙をもらって、ずいぶん不愉快な思いをしたことがあります。
相手は年配の方で、何でもかんでも手紙でよこす人でしたが、コミュニケーションの手段がたくさんある現在の「常識」で考えれば、やり取りの内容によって、郵便物の手紙以外にも、電話、メール、チャット、その他いろいろ使い分けるべきです。
前述の男性2人の話していた「常識」は、自分たちがこれまで経験してきたことから見た一面的なものです。情報リソースが少なかった時代は、新聞を読まなければ始まらなかったかもしれませんが、情報リソースをたくさん持っている今の若者からすれば、「新聞ばかり読んでいるなんて非常識」などと言われてしまうかもしれません。
これは自分への戒めも含めてですが、過去の経験ばかりに固執せず、できる限り新しい情報に接しながら、今の常識というのはどのあたりにあるのかということについて、常にアンテナを張っておく必要があると思います。
「自分の常識」が「他人に非常識」になっていることがあります。
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