小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「街中の名刺交換」が本当に研修ならば、その求める効果は何か?
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「すみません。新人研修中なのですが、よろしければ名刺交換をして頂けませんか?」
街中でこうやって声を掛けられた経験のある方がいると思います。
最近は時期を問わず、年中見かけますが、この実態は後から電話などがかかってきて、しつこく営業されるということのようです。相手が本当に新人かどうかもよくわかりませんし、理由をつけて名刺をもらって、それを営業先にしてしまうのであれば、これは研修ではないでしょう。
私は、相手がどんなに真面目そうな人であっても、道端で知らない人に名刺を渡すことはしませんが、新人研修などといわれると、つい渡して「頑張れ!」の一言も言いたくなる人がいると思います。そんな人の善意に付け込んで、半分欺いたような形で行う営業スタイルは、それをやらせている企業の見識を疑いますし、それに巻き込まれている社員の人たちも気の毒な感じがします。
今回はそういうモラルの話はさておき、もしもこれが本当に研修だとしたら、いったいどんな研修効果を狙っているのだろうかを考えてみました。
「知らない人に声を掛ける訓練」
「名刺交換の練習」
これはどちらも、別に街中で名刺交換をさせなくても、他にやり方はありそうです。
「寒い中や暑い中など、つらくても頑張る」
「人から冷たく無視されることにもくじけないメンタルを作る」
こちらも仕事の大変さを思い知るためなら、やはり他にやり方があるでしょう。例えば実際の営業活動の中に飛び込み営業などがあるならば、そういう実践の場を使った方がよほどためになると思います。
要はこの「街中の名刺交換」が研修だったとしても、どんな効果を狙っているのかが良くわからず、研修として成り立っていないという事です。
世の中に研修と言われるものはたくさんあります。軍隊のように、とにかく肉体的、精神的に厳しい団体行動を課してカルチャーショックを与えるようなもの、高度な研究テーマを課して、とにかく頭が疲れるもの、論理を知るためのもの、スキルを学ぶもの、その他いろいろです。
私も研修の企画をしたり、講師としてお手伝いすることがありますが、本当の意味での効果を得るのはとても難しいことです。
研修の実施直後はなるほどと納得して、次への取り組みを思い描いていたりしても、時間の経過とともに刺激を忘れて意欲は下がり、最後は元と変わらないこととなってしまうことも多いものです。
特に人の行動を変える、マインドを変えるといったことは、なかなか時間がかかることですし、どんなことがその人の心に響くかは、人によって違います。受講後のアンケートなどを見ても、同じ研修の中でためになったと思うことや印象に残ったことは、人によってまったく違います。
研修に関してよく言われるのは、「研修で上乗せの効果を得るのは難しいが、やめると確実にレベルダウンが起こる」ということです。レベルを維持するために、研修を継続的に実施する必要があるということですが、最近は予算削減の企業も多く、そういうところでは研修は後回しにされがちになります。
「研修効果が見えない」ということを後回しの理由にする会社がありますが、効果が見えない一因には、何をどれだけ求めるのかを事前にイメージできていないということがあります。
結果を急ぎ過ぎたり、過大な期待をしたり、求める結果自体が曖昧だったりということが見受けられますし、研修をやること自体が目的になっていることもあります。
最近は短い時間軸で具体的な数値に見える効果を期待されたりしますが、それほど簡単に人の意識や行動が変わることはありません。
研修効果を得るためには、事前に期待する効果を明らかにし、それに向けて様々なパターンを網羅した学びの場づくりをするということです。それをもとに現場で継続して指導することも大事です。
そうでなければ、「街中の名刺交換」とあまり変わらないことになってしまうと思います。
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