小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ給与制度の“格差”の良し悪し
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格差に関する問題は、相変わらずいろいろなところで注目されています。
経済学者ピケティ氏の著作に、経済格差の固定や拡大に関する記述があり、この解決策として、ストックである資本への累進課税強化などが提唱されています。
この書評を見ていると、「確かにその通り」とか「いやこれは日本には合わない」など、肯定、否定それぞれの意見を含めていろいろな記述がありますが、少なくとも今の社会には看過できない格差が存在していて、それが徐々に拡大しているという認識は共通しているのだろうと思います。
これとは少し視点が違いますが、企業の給与制度にも、必ず何らかの格差があります。全員がまったく一律で同じ給料という会社を、私は見たことがありません。
これは、あくまで私の経験上の個人的な主観ですが、業界事情や企業風土、その他さまざまな事情から、良くも悪くも安定して変化が少ない会社や、会社間や社員間での競争原理が弱かったり、差がなかったりするような会社は、やはりあまり活気を感じることはできませんでした。
社員の働く様子を見ていると、適度な競争やそれに伴う良い意味での格差は必要なことだと思います。
ではどんな競争で、どの程度の格差なら適度と言えるのかと問われると、そこにはっきりとした見解を示すことはなかなか難しいです。
しいていえば、「適度な水準は必ず存在するが、それは個人や会社ごとにすべて違う」という感じです。
給与制度の設計などをしていると、経営者や管理職から「できる者ほど厚く処遇する制度を!」とよく言われます。頑張って成果を残した人の実入りを良くしたいということで、その気持ち自体は理解できますが、これを実現しようとした場合は、それに見合う元手が必要になります。給与原資と呼ばれるものです。
これを無条件に積み増すような太っ腹の会社はめったになく、多くの場合は今の元手の範囲内で「配分を変える」という意識になります。給与原資はその会社の「給与水準」に直結しますが、これを上げるためには、会社全体の業績が伴わなければ難しいことです。
つまり、「できる者に厚く処遇する」ということは、「できない者の処遇を減らす」ということでもある訳ですが、経営全体を意識している上級職の人でも、意外にこのことを意識せずに、評価が良い社員の様子を見て、「給与水準が低い」などと批判したりします。
そういう人に、「給料を減らしても構わないような評価が悪い社員はどのくらいいるのか」と尋ねると、そこで名前が挙がるような人はいたとしてもほんの数人で、割合ではたぶん1%にもなりません。
結果として、「できる者に厚く処遇する」ができない会社はたくさんあります。
その一方、給与格差が大きいことを、「評価に見合ったメリハリのある処遇」と自慢する会社がありますが、これは給与水準自体が高い会社が多く、最低評価の人でも給与水準は一般的であったりします。
逆にいえば、社会通念として許される水準が保たれるからこそ、格差の大きさが受け入れられるということです。
企業の給与制度では、どちらかというと「できる者に厚く処遇する」という部分ばかりが強調されがちですが、それを実行するには他の社員のマイナスを受け入れなければできません。それが世間並み水準を割り込んでしまうようでは、格差自体が受け入れられなくなります。
給与格差は、大きければよいというものではありません。会社の身の丈に合ったバランスを考えることが重要です。
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