小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「森林の世代交代」が企業の組織作りと共通しているという話
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少し前のことになりますが、テレビでコメンテーターなども務められている、大学教授で造園家の涌井史郎氏が講演で話されていたことが印象に残りました。
森林の世代交代という話をされていて、それは「森林で古い木が幅を利かせていると、木の世代交代が行われない」ということでした。古株の大きな木が枝を張っていると、下まで光が届かないために、新しい木が育たないのだそうです。
この古くて大きな木の枝を適度に剪定することで、下まで光が届くようになり、森林の世代交代ができるようになって、林業で持続的に森林を利用することができるということです。
里山で適度に人の手を入れることで、多様な生態系を保つことができるという話を聞いたことがありますが、これと同じことのようです。
涌井氏はこれを企業の組織作りにもあてはめ、実は同じようなことがあるのではないかとおっしゃっていました。世代交代ができていない組織は、古株の社員や幹部社員が権限を独占して、森林でいえば下に届く光にあたる、若手社員や部下に渡すべき権限や業務上の経験をする機会を奪っているのではないかということです。
私もいろいろな企業で、若手社員が育たない、成長が遅いという話を聞くことがあります。「今どきの若者は・・・」的なニュアンスで若手を批判する声も聞きますが、これらは本人たちの問題だと一概にいうことはできません。
例えば、今の企業の人員構成は、特に大企業ではバブル期などで採用人数が多かった時期に入社した、40代なかばから後半の世代が多くなっています。
本来は後進を育成するべき人たちですが、組織上のポストや本人の能力的な問題などから、相応の立場を与えられていない人が大勢います。
その意味するところは、年令を重ねても、若い頃とあまり代り映えのしない仕事をし続ける人がたくさんいるということで、本来は若手社員たちに経験させるべき仕事を自分たちがし続けているということになります。まさにこれは下に届く光を遮っている状態ですから、世代交代が滞ってしまうのも当然でしょう。
しかし、いびつな人員構成に原因があるのだとすれば、こちらも中高年社員だけに責任を押し付けるのは、少しかわいそうです。森林でどの木を切るのか、どの枝を選定するのか、その時期をどうするかといったことを考えるのと同じように、企業でもどんな役割をどの社員に与えるのか、組織全体を見渡しながら考えていかなければなりません。
さらに、「日本の企業は一種類の木しか育てていない“単純林”のところが多い」ともおっしゃっていました。異質な人や変わった人は避け、均質化された同じようなタイプの人材を好むために、新たな発想やイノベーションが産まれづらくなっているとのことです。「競争力の強化やグローバル展開を進めるためには、多様性を持った“混交林”が必要だろう」とのことでした。
“森林”という木の集まりと、“組織”という人の集まりという違いはありますが、「何かの集まりを育てる」ということでの原理原則には、ずいぶん共通した部分があるように思います。
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