小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「余裕」と「ムダ」の境目
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最近ある知人から聞いた話です。
社員が5人ほどの設計事務所ですが、このところ急激に仕事が増え、直近の決算では事務所として過去最高益なのだそうです。
少し前には本当に仕事が少なく、「社員に辞めてもらわざるを得ないんじゃないか」「事務所自体も続けていけるのだろうか」というような厳しい状況だったそうですが、みんなで協力して何とか持ちこたえているうちに、景気の潮目が変わったせいか、急激に良い方向へ転換していったのだそうです。
また、その転換にうまく乗れた理由が「社員をきちんと抱えていたから」ということがあるのだそうです。
専門的でコアな業務をこなす能力がある社員がいてくれたことで、案件が出てくればすぐに取り組める体制があり、そのおかげで迅速な対応を取ることができたということでした。
もしもこれが、社員を抱えずに会社をスリム化していて、外注に仕事を流しているような会社だったとしたら、景気が良い循環になったときには技術を持った人材を集めることが難しく、迅速に仕事を請け負う体制を作ることができずに、受注を伸ばすことができなかっただろうということでした。
経営的な視点では、業務量に応じた弾力的な人員体制を取れるのは良いことのように言われます。ムダな要員を抱えることを避けるために非正規雇用を増やしたりするのでしょうし、最近出ている解雇規制緩和の話も、同じような意図が含まれているのだと思います。
効率重視でできるだけ人を雇わず、何でも外注したりアウトソースしたりという動きも、同じような考え方からでしょう。
ただ、ムダをなくすということは、裏を返せば「余裕」「余力」「のりしろ」となる部分は少ないということです。
経済環境が現状維持かマイナス方向であれば、ムダをなくすということ、コスト削減には確かに意味がありますが、拡大やプラス方向が見えるような環境で、余裕や余力がないということでは、適切な対応を迅速に行うことは行いづらくなります。
特に「人」という観点で、必要な人材というのは、そんなに都合良く入社してきたり、契約ができたりというものではありません。仕事の案件が出てきたから「さぁ人材調達を!」などと考えても、それはだいたいにおいて手遅れで、なかなかうまくいくものではありません。
「人を雇う」ということには責任も伴いますし、それを維持するのは経営的にも大変なことですが、会社にとっての社員というのは、仕事の上での一番身近なパートナーであり、味方であるといえます。
パートナーや味方は多いに越したことはないと思いますが、会社が効率を追求しすぎるあまり、最近はこのパートナーや味方を、ないがしろにしたり排除したりという動きが多いように感じます。
この設計事務所の例は、見方によってはただやせ我慢しただけで、たまたま結果オーライだっただけなのかもしれません。
しかし、この例のように、社員を単なるコストなどと考えず、仕事のパートナー、仲間として意識することが、経済合理性にもかなうという状況もあります。
いったい何が余裕で、何がムダかということは、状況に応じて間違わないように考えて行く必要があると思います。
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