小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「情報共有」に自信を持つ社長のちょっとずれた感覚
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私は会社全体での情報共有、認識共有は、業績向上のために重要な要素の一つだと思っています。
そんな話をしたとき、賛同してくれる社長とそうでない社長がいますが、あまり肯定的ではない社長がよく言うのは、「情報を伝えてもどうせ理解できない」ということです。
そんな時に私は、「情報を出さなければ理解者はゼロだが、出せば少数でも理解できる人がいるかもしれない」と言います。情報共有、認識共有のためには、まず伝える努力をしなければ何も始まりません。
そういう中で、ある会社の社長と社内の情報共有に関する話をしていた時、この社長は、「うちの会社はどんな情報も隠さずに社員に公開している」と自信満々におっしゃって胸を張ります。ただ、一見したイメージでは、そんなタイプの人には見えなかったので、もう少し細かく話を聞いてみました。
その話の中で、公開していると言ったのは、期末の財務諸表のB/SとP/L、あとは月次の売上と利益の集計値という資料で、それもエクセルシートにただ数字が並んでいるようなものでした。
この資料に対する社員からの問い合わせは、未だかつて一度もないそうで、これをベースにした議論もしたことは無いようです。
社員が資料の内容を理解しているとは言い難い状況と思われますが、社長がおっしゃるには、「これだけの情報を見せているのだから、理解できない方が問題」「これくらいのことは読み取れるように勉強することが当然」とのことです。
この発言に見られるように、社長は社員たちが自分と同等のレベルで会社状況を理解している前提で振る舞うようですが、社員たちの意識は当然そこまでついてきていません。それに対して社長は、「うちの社員は意識が低い」「理解力が足りない」と言い、ご自身の発想に基づく施策を、わりと一方的に打ち出します。
社員たちは、さらにそこについていけないという悪循環になっていますが、社長自身はこの状況への対策が必要という意識はありません。
確かにこの社長の言う通り、公開している情報を読み取る力が社員には足りないという言い分はわかります。ただ、ここでの一番の問題は、社長自身が持っている様々な会社情報を、結局は「伝えようとしていない」ということにあります。結果的には会社全体での情報共有、認識共有にはつながっていません。
決算時の財務諸表では、様々な会計上の調整もされるので、仮に読み取り方を勉強していたとしても、実態を知るには、その内容を突っ込んで聞かなければわからない部分がありますし、解説も無いままでただ数字が並んだエクセル帳票を見せられても、特に一般社員などはまったく意味が分からないだろうと思います。
この会社での情報発信と共有の中心を担っているのは社長ですが、「伝えようとしていない」という情報開示では、実施する意味はほとんどありません。
これは極端な例かもしれませんが、情報や認識の共有を考える時、「伝えたか」よりも「伝わったか」ということが最も重要です。その結果は結局業績として経営者にはね返ってきます。
「しっかり伝わったのか」という相手目線の意識が大切だと思います。
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