小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「奇抜な採用活動」には思い込みが隠れていないか?
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これはいつの時代でも挙がる話題ですが、他社とは一線を画した「奇抜な採用活動」が紹介されることがあります。
少し前に目にしたところでは、ウェブサービスの有名企業で、新卒の採用試験の様子をドキュメンタリー形式で動画公開しているというものがありました。それなりに話題を呼び、注目されることでの自社PR効果も十分にあっただろうと思います。
また、東京のある企業では、「マッチョ枠」と称して、運動能力を試す試験の上位者は無条件で最終面接まで進めることとして話題になりました。大学までテニス一筋だったある女性社員が、入社後にめきめきと頭角を現し、若くして支店の責任者になった事が導入のきっかけだそうです。運動能力の高い人の方がメンタルが強く、仕事は休まず、キビキビ動けて仕事も速く、成果を上げてくれる可能性が高いからだそうです。
さらにある大手ディスカウントストアでは、「大学名などにとらわれず、人物重視の姿勢で優秀な人材を募りたい」として、履歴書不要の採用を始めているそうです。それに先立って始めた中途採用で履歴書不要としたところ、応募者がほぼ倍増したとのことで、これを新卒採用でも実施するのだそうです。
かつて、大手電機メーカーが学歴不要の履歴書を使ったことで話題になりましたが、その会社も、卒業後3年未満であれば新卒応募可能、配属先を自分で選ぶコース別採用、スーツ不要で服装自由などという取り組みを始めていて、今のところは継続されているようです。
企業の採用活動では、特に新卒採用を中心として、このような奇抜と言っても良い採用方法を取る企業が最近特に増えています。人材確保に関しては、求人倍率のような単純な指標では測れない部分がありますし、優秀な人材の獲得競争は、それだけ危機感を持っている企業がたくさんあるという証明でもあると思います。
ドキュメンタリー動画の例は、企業PRの色彩が強いので、他社の例とは少し異なりますが、それ以外の取り組みは、応募資格や選考方法など直接的な採用活動に関わることが中心です。
「今まで応募されなかった層にアプローチする」「選考基準の視野を広げる」など、その目的は様々で、各社がそれぞれ工夫しながらの取り組みというのは、とても大事なことだと思います。
これ自体は良い取り組みであるという前提で、一つだけ気になることがあります。
例えば「マッチョ枠」の件でいえば、前例となった女性は、本当に体育会だから頭角を現したのだろうかということです。学歴不問の件でいえば、それで本当に先入観が排除できるのか、服装自由にすれば、本当に今まで来なかった人材に出会えるのかということです。ここからは、「こういうやり方をすれば、人材の質がたぶん変わるだろう」という、一種の思い込みのようなものを感じてしまうのです。
体育会だからと言って、体力も根性もある活発な人材ばかりかといったら、必ずしもそうではありません。「そういう人の比率が高い」と言われれば、私自身も確かにそんな傾向があるという印象はありますが、全員が必ずそうだとは言い切れないでしょう。
学歴不問の件でも、本当に選考の最後まで徹底して聞かないのならまだしも、たぶんどこかで学校の話題は出てきます。前述の学歴不問の大手電機メーカーでも、結局はリクルーターが母校から後輩を引っ張っていたりするので、採用実績は有名上位校ばかりとなり、学歴不問は単なるパフォーマンスだと揶揄する声もあったようです。
心理学用語で、「物事に対してその人が無意識のうちにしてしまう、ある決まったものの見方や考え方」をいう「スキーマ」という言葉があります。
この「スキーマ」は、自分のスキーマに合うことは強く印象に残って強化され、合わないことは無視してしまうという傾向があります。
体育会人材、学歴不問、履歴書不要のどれも、どこかにこの「スキーマ」という一種の思い込みがある感じがしてしまいます。視野を広げるための取り組みが、逆に視野の偏りを増すことになってしまっていないかが気になります。
「人を見る目」の本来の基本は、このスキーマを作らないことだと言われますが、実際には難しいことです。私自身もなかなかできません。
ただ、様々な志向を凝らしたせっかくの取り組みが偏った思い込みになっていないか、本来の目的に合致するかどうかは、今一度見直してみることも必要ではないかと思います。
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