茅野 分(精神科医(精神保健指定医、精神科専門医))- コラム「心理療法の違いを教えて下さい」 - 専門家プロファイル

茅野 分
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茅野 分

チノ ブン
( 東京都 / 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医) )
銀座泰明クリニック 院長
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心理療法の違いを教えて下さい

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2017-08-11 15:21

鬱病のため精神科へ通院して1年以上になります。鬱は前より良くなったのですが、後は性格の問題と言われました。性格を変えるにはカウンセリング・心理療法へ通うことを勧められました。そこで調べてみたのですが、色々な治療法があるようで、何が良いのか、合っているのか分かりません。それらの違いなど教えて下さい。(34歳、女性)


鬱が良くなって何よりですね。鬱状態にある時はカウンセリングや心理療法を行ってもなかなか効果が出ないものです。常に否定的な考え方に終始してしまい、肯定的な考え方や柔軟な考え方へ切り替えることができません。ですから、鬱病に罹患された際は、まず、ゆっくり休むこと、抗うつ薬を服用することを優先していただき、本格的なカウンセリングや心理療法はある程度回復してからもしくは寛解してからをお勧めします。なお「寛解」とは、薬を服用しつつ、症状が消退している状態です。
 
鬱病の病前性格は伝統的に、同調性、執着気質、メランコリー親和型性格が有名です。同調性とは、環境に融合・調和しやすい性格傾向を意味します。執着気質とは、熱中性、徹底性、几帳面、正義感、責任感や一度生じた感情が冷めにくい持続性を意味します。メランコリー親和型とは、秩序志向が強く、自己の要求水準の高い、良心的で他人に尽くす性格を意味します。いずれも社会的に「良い」性格であるのですが、ともすると本人は苦しくなってしまうため、緩められるよう心理療法が望まれます。
 
最近は、新型、現代型、未熟型、自己愛型、ディスチミア親和型鬱病など様々な造語がなされましたが、いずれも「笠原・木村の分類(1975)」Ⅲ型:葛藤反応型鬱病に相当すると考えられます。すなわち、未熟依存的自信欠如的性格者が持続的葛藤状況により生ずる鬱病です。従って、治療の目標は、仕事により自信を得て、人格を成熟させ、自立した人生を歩んでいけることにあります。それには長期間・高頻度の心理療法が必要となります。


 
心理療法は世界に数百種類あると言われています。心理諸学会も国内に数十種類は確認されています。資格も複数あり、「臨床心理士」が最も上位にあるとみなされてきましたが、このたび「公認心理師」が国家資格化され、これに集約されていくことでしょう。

20世紀まで「精神分析療法」が欧米を中心に隆盛を誇っていました。フロイトが創始した治療で、「無意識のなかに無理に抑え込まれた欲動が精神症状として現れると想定し、自由連想を用いてその葛藤を明らかにすること」により症状を改善しようとしています。古典的な治療法は週4-5回の面接を行い、数年間を要します。最近は短期精神力動的精神療法として週1回、1年以内で洞察へ導く方法も目指されています。これは、特にアメリカの民間保険医療では長期の治療費を負担できないと却下されるようになったからです。



それに取って代わったのが「認知行動療法」です。そもそも精神分析療法を学んだベックが鬱病に特徴的な否定的認知の3徴候:自己・世界・将来を明らかにしたことがはじまりです。「認知(考え方)に働きかけ、情緒を変化させ、問題解決を図ることを目的とした、短期の治療法」です。具体的には、1.症例の概念化、2.行動活性化、3.認知再構成による自動思考の根拠と反証の検証、4.心の奥底にあるスキーマの修正、5.治療終結という手順をたどります。週1回、15回前後の面接で終結に至ります。自傷行為を繰り返すような重症者には、患者のありのままを受け止めながら、問題解決を援助していく「弁証法的行動療法」も行われます。さらに、トラウマを克服するには「持続性エクスポージャー法」や眼球運動による脱感作を行う"EMDR. Eye Movement Desensitization and Reprocessing"などもありますが、国内の医療機関では一般的に行われておりません。

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一方、日本では1920年頃、森田正馬が「森田療法」を創始しました。内省的・理知的である神経症の患者は「かくあるべし」という理想像と現実の自己像との葛藤の結果から症状へのとらわれが起きていると説明しました。治療は症状・気分を「あるがまま」に受け容れ、やるべきことを「目的本位」「行動本意」に実行し、「死の恐怖」「生の欲望」へ転換させるように働きかけました。これまでは1-2ヶ月間の入院治療を基本としていたが、最近は外来で日記を用いながら柔軟に行われています。また、患者会である「生活の発見会」は日本全国で行われ、自助グループとして機能しています。

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「内観療法」は1930年代、吉本伊信により創始された「自己観察法」です。もともと浄土真宗の身調べという修行法に由来していますが、宗教色は排除し、現在は治療法として用いられています。「集中内観」を基本とし、静かな一室に1週間滞在し、朝から晩まで、「内観三項目、お世話いただいたこと、して返したこと、ご迷惑かけたこと」を母からはじめ、父、兄弟姉妹、これまで人生に関わった人々に対し、3-5年ずつ時間を区切り、調べ尽くします。これにより、母性的な「恩愛感」のもと父性的な「自責感」を深め、「我執から解放される」ます。集中内観を終えた後は、「日常内観」といい日々の生活の中でわずかな時間でもいいから内観三項目を思い返すことが勧められています。と言っても、なかなか一人で行い続けるのは難しいため、「自己発見の会」という集中内観を体験した人々を中心とした自助グループが立ち上がりました。


自己発見の会・公式キャラクター「いしんくん」

最近、世界中で流行しているのが「マインドフルネス」です。1979年にジョン・カバットジンによりマサチューセッツ大学医学部にストレス低減プログラムとして創始された瞑想とヨーガを基本とした治療法です。ジョン・カバットジンは鈴木大拙の禅に影響を受け、仏教を宗教としてではなく人間の悩みを解決するための精神科学としてとらえ、医療に取り入れました。その基本的考えは、煩悩からの解脱と静謐な心を求める座禅に軌を一にしています。マインドフルネスの語義は「注意を集中する」です。一瞬一瞬の呼吸や体感に意識を集中し、「ただ存在すること」を実践し、「今を生きること」のトレーニングを実践します。これにより自己受容、的確な判断、およびセルフコントロールが可能になるのです。マインドフルネスは認知行動療法に取り入れられ脚光を浴びるようになりました。しかし、認知行動療法は認知の変容を目指すのに対して、マインドフルネスは認知のとらわれからの解放を誘導するところが対照的です。



いずれの治療も、「言語的、非言語的な対人交流を通して精神的な問題を解決し悩みを軽減すること」を目的としています。治療的技法はそれぞれ異なりますが、基本的な治療要素は共通しています。認知療法の治療評価尺度(CTRS. Cognitive Therapy Rating Scale)によりますと、PartⅠ.基本的スキル(1-6)の項目はあらゆる精神療法に共通した基本的スキルと言えるのではないかと言われています。それは、下記の通りです。

1. アジェンダ:治療者はアジェンダをを設定したか

2. フィードバック:治療者はセッションの前後にフィードバックを非言語的にも引き出していたか

3. 理解力:治療者は患者の「内的言語」を含め理解していたか

4. 対人能力:治療者は患者に対してお思いやり、気遣い、信頼感、誠実さなど示していたか

5. 共同作業:治療者は患者と一つのチームとして共同作業ができたか

6. ペース作業:治療者は核心から外れた発言を制限して、進行を適した速度に調節できたか

7-11は認知療法に特化した内容で、7.導かれた発見、8.中心となる認知または行動に焦点を当たる、9.変化に向けた方略の選択、10.認知行動的技法の実施、11.ホームワークとなっております。



そして、いずれの治療法においても、患者さんが主観的に抱いている否定的な認知を、治療者が「導かれた質問 Guided Discovery」により客観的に気づかせ、肯定的な認知へ修正していくことが理想です。ともすると、治療者は「直面化」と称して患者へ厳しい言葉(説教)を投げてしまうことが少なくありませんが、最も効果的な方法は患者さんが自ら気づき、改めていくことです。その方法は十人十色、人それぞれでして、疾患や性格、年齢や性別、治療者との巡り合わせなど、様々な要因によって異なります。つきましては、まず主治医に相談し、現在の病状に適した治療法を相談されてはいかがでしょう。納得いかない場合はセカンドオピニオンとして、他の医師や心理士へも相談してみましょう。どうぞお大事にして下さい。

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