茅野 分(精神科医(精神保健指定医、精神科専門医))- コラム「内観療法のワークショップに参加して」 - 専門家プロファイル

茅野 分
東京・銀座の心療内科・精神科、夜間・土曜も診療しております。

茅野 分

チノ ブン
( 東京都 / 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医) )
銀座泰明クリニック 院長
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内観療法のワークショップに参加して

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2015-10-24 17:20

内観療法のワークショップに参加して/第111回日本精神神経学会学術総会より

茅野分/銀座泰明クリニック、筆者は、内観療法に関心を持つ精神科医であり、日本内観医学会の会員でもある。

平成27年6月4日から6日にわたって、大阪国際会議場およびリーガロイヤルホテル大阪において、第111回日本精神神経学会学術総会(世界精神医学会(WPA)との併催)が開催された際に、内観療法のワークショップが行われるというので参加した。6月5日(金)のことである。当日は8時半という早朝からの開始であったにもかかわらず、170名収容の会場に120名前後の参加者を集めて行われた。ワークショップの演題は、「内観療法の実際-症例編-」。演者は3名。当日の講演順に内容の一部を抜粋して紹介しよう。

トップバッターとしてマイクを握ったのは、「医療法人清潮会三和中央病院長」の「塚崎稔先生」であった。「症例からみる内観治療」と題して病院臨床のなかでの内観療法をご紹介いただいた。エビデンス・ベイストなご発表で、アルコールはじめ物質による精神・行動の障害が過去11年間で296/396人と圧倒的に多いことに驚かされた。症例1はうつ病リワークプログラムに通院中の非定型うつ病、30歳、男性。我欲が強く、自己中心的で他者からの承認を求め悩んでいた。集中内観を経ると「自分が周りの人からどれほど支えられ生きてきたか実感でき、自分でも驚くほど穏やかな気持ちになれました」と述べたという。症例2は医療観察法通院プログラムにある50歳、男性、妄想性障害、アルコール依存症。幼少期から実父の虐待を受け、共感性を欠いて育った。45歳時、被害妄想から近隣住人を刃物で切りつけた。入院後も心を閉ざし、周囲と交流を絶っていた。そこで月2回、10ヶ月間もの内観療法を実施。すると「病弱な母へ迷惑をかけました、被害者へも申し訳ありません」と丁寧に述べるようになったとのことだった。

次に「心身めざめ内観センター主宰」の「千石真理先生」が演台に立った。「ハワイの内観研修背景と実践」と題して、北米文化圏における内観療法が紹介された。アメリカの終末期ケアや緩和ケアにおいて仏教や禅にスピリチュアルケアとしての役割を期待しているとのことだった。日本人としては誇らしい気持ちにさせられるお話であった。症例は60代、白人男性、アルコール依存症、3回目の結婚、日本人女性と離婚の危機にある。いずれの離婚もアルコール依存症が原因だった。千石先生との内観カウンセリングにより、幼少期からの父親との確執が解消し、アルコール依存は寂しさを紛らわせるという気づきが得られ、離婚の危機も救われた症例であった。

最後の演者は、「佛教大学特任教授・大和内観研修所長」の「真栄城輝明先生」であった。「病院臨床と内観研修所を舞台に」と題して、Psychotherapyとしての内観が紹介された。症例1は統合失調症の母親を持つ青年、母親へ甘えた記憶はないと内観を拒否し、父親の内観からはじめた。それでも、運動会の記憶の中、母親が深夜にお弁当を作ってくれている姿を思い出し、泣き崩れた。そして「母は僕のことを愛してくれていた。僕は愛が見えなかっただけ」と語り、一度も見舞ったことのない母親の病院へ行った。症例2は被害妄想を抱く高齢の女性。主治医の承諾を得ず、突然やってきた。他者と同様に静かに内観する条件で開始。すると、長男が高校時代に成績低下した時に本人を責めてしまい、結果、自死を遂げたと号泣した。この告白を機に女性は憑き物が落ちたように穏やかになった。「内観療法により統合失調症が治る」ことはないけれど、「物の見方が変わり、心に平安が訪れ、感謝報恩の気持ちで暮らせるようになる」とのこと。まさに内観療法の真骨頂といえよう。

このところ内観療法は、この学会では3年連続でシンポジウムとワークショップを開催してきたという経緯が司会者(小澤寛樹先生・堀井茂男先生)からの紹介があり、毎年のように多くの参加者を集めてきたようである。質疑応答も活発に行われ、当日はセッション終了後にも演者を捕まえて質問している方もいた。21世紀は脳科学の時代といわれる時代に、なぜ内観療法なのか、それはやはり精神医学は「人間関係」を無視しては成り立たないからだろう。薬物療法が主体の精神科医療にあって、少なくない精神科医たちはそれを補う方法を探し求めているようである。ちなみに、今回の大会テーマは「翔たくわれわれの精神医学と医療-世界に向けてできること-」であった。
たとえ精神疾患の原因が脳の部位に見つかったとしても、精神医学が「翔たく」ためには「体」はもとより、「心」や「社会」だけでなく、「魂」も含めた人間存在の全体を見渡す必要がある。そうなると、精神科医療者にとっては、内観療法への期待はますます高まっていくであろう。少なくとも、今回のワークショップに参加して筆者はそう感じた。

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