対象:住宅設計・構造
野平 史彦
建築家
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全館空調住宅とは、、
「ランニングコストに違いが出ないのか?」というご質問ですが、全く同じ間取り、形、開口部などのモデルを作って、夫々の建物全体の熱損失係数(Q値)と隙間相当面積(C値)を求め、負荷計算をしてみれば、計算上の違いがでるのかもしれませんが、全く同じ温度条件の元で夫々の全館空調システムを1ヶ月間稼働させてみなければランニングコストにどのような差がでるのか、実際の所は誰にも分かりません。
随分前に、建築家の安藤忠雄氏と宇宙飛行士の毛利衛さんの対談というのをテレビで見た時に印象に残っていることがあるのですが、安藤さんが
「家は自然が身地かに感じられた方がいい」
と言うと、毛利さんは
「科学技術がこれだけ発達したのだから、外界の気候条件に関わらず、空調で快適な室内環境で過ごせる家がいい」
と言うのを聞いて、私は大変驚かされたのです。
確かにオフィスビルや公共施設のように住宅だって全館空調して快適な室内環境をつくる事ができるのです。砂漠の国であろうと、アラスカであろうと全館空調してしまえば、どこでも同じ家を造る事ができます。しかし、あえてそれをしないのは、やはり安藤さん的な感覚を私達設計者自身が持っているからなのかもしれません。
家というのは、その土地の気候風土の中で建築的な手法によってどれだけ良好な室内環境を作り出せるか、という「形」をしているのです。
できるだけ自然の力を利用して、不足する部分をできるだけ僅かなエネルギーで補おう、というのが、いわゆる「パッシブデザイン」という考え方で、長い歴史を通して世界中の家がそのように造られてきました。
しかし、全館空調住宅には敵いません。そこまでの室内環境を作り出す事はなかなかできません。
補足
但し、全館空調住宅というのは、24時間365日空調し続けることによって成り立っている住宅です。空調している間は人の健康も家自体の健康も保つ事ができます。空調を入れたり止めたりしては効率が落ちるし、止めている間にダクトの中にカビが生えたりします。空調する事を前提として空調に頼った家づくりをしているので、止めてしまうと家の中の空気の流れがなくなり家自体、北側の押し入れの中が結露したり、カビが生えたり、内部結露を起こしたり、と色々な不健康が発生してきます。だから、空調住宅は「空調」が生命線なのです。
光熱費が高いと感じて空調を切ってしまっては、どのような問題が起こるのか実際のところは分かりませんが。空調住宅のランニングコストを抑えたければ、熱負荷の大きな「窓」をつくらないのが一番です(これは基準法では×ですが)。それはさながら毛利さんが大好きな宇宙船の様ですね。
今までもしかして、寒い暑い家しか知らず、快適な室内環境を求めて「全館空調住宅」というお気持ちだとしたら、「断熱」という最も効果的なパッシブデザインを信じてみては如何でしょうか。断熱という視点から見ると、古河林業も三菱地所ホームも何か中途半端な気がします。高断熱した家は日中は太陽の日差しだけで暖かく、夜寒ければ僅かなエネルギーで暖房する。夏、冷房したければ、気流など感じない輻射冷房もある。中間期は風を通して清々しく生活する。イニシャルコストもランニングコストもその方がずっと安く済む。
その土地の自然に合った家づくりをした方が、人の健康、家の健康が保てる様な気がするのですが、如何でしょうか?
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この回答の相談
新築住宅で全館空調を検討しております。
全館空調では実績豊富な三菱地所ホームか在来工法の古河林業にするか悩んいます。
1.現在の新築プラン
・建坪 50坪(1F:25、… [続きを読む]
ミーパパさん (神奈川県/50歳/男性)
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