対象:住宅設計・構造
野平 史彦
建築家
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建築家への道
私事ですが、正月に右手を怪我してパソコンのキーボドを触るのもままならず、このちょっと微笑ましい問いにお応えできずにおりました。やっと少し指が動かせる様になってきたので、遅まきながら書かせて頂きます。
私は大学では当初、機械の設計をしておりました。しかし、就職時期になってこのまま就職してしまっていいのか?という疑問が沸きました。機械の設計というのはシンプル・イズ・ベストが基本です。確かに無駄を省いて研ぎすまされたものの中に機械の<美>があります。しかし、ものにはもっと造り手の人間くささがあってもいいのではないか?と思ったのです。それで、早稲田の建築科にでも編入学しようと思ったのですが、担当教官が、今度うちの建築科に丹下さん(丹下健三:日本を代表する建築家)ところの番頭さんが教授として赴任してきたので、一度相談に行ってみたらどうだ、と言うので行ってみると、「俺がいるんだから他に行くことないよ」と言うので、そのまま建築科に移りました。
それで一所懸命勉強したか、と言えば、そうではありません。学費を稼ぐためにバイト三昧、あとはジャズ研でピアノ三昧。ジャズでは食えないので、ポップス系のバンドに曲を提供していて、もしかしたら作曲家?という夢もありましたが、また就職の時期になり、「卒業制作で賞を貰ってから自分で設計事務所を廻ります」という僕の言葉に教授も呆れ、卒業間近の3月に入るまで就職先は決まりませんでしたが、たまたま東京の設計事務所から声がかかりなんとか就職。美術館、博物館、図書館といった公共建築物の設計に携わり、毎日深夜までスケッチと模型づくりの繰り返し。
5年ほどそんな生活をしていると、頭の中が空っぽになったような気がして、海外に飛び出し、ロングバケーション。イタリアの大学でブルネレスキというルネッサンス期の建築家(建築家と呼ばれた最初の人)の研究の傍ら、文筆活動で作家の道を探り
補足
写真を撮りまくっては写真家の道を探り、常にそんな浮気心を持ちながら、結局、独立して設計事務所を開き、今も建築の設計の仕事をしています。
これって、おいっこさんのハンバーガーの話しとちょっと似ている様な気がするのです。
人には二通りあって、メニューを見てあれも食べたいこれも食べたいと迷う人と、これも食べられないあれも食べられないと迷う人がいます。何かを産み出そうという人は明らかに前者でなければなりません。特に、建築にはその素養が必要である気がします。
画家、彫刻家、音楽家、建築家、あるいは小説家、評論家というように、「家」が付く職業がありますが、この「家」とは思想・哲学を意味しています。言い換えれば「独自の世界観を持ち、それを表現する人」ということです。絵や彫刻、音楽はその世界観を表現するための手段にすぎません。
しかし、画家や彫刻家、音楽家、小説家などはまず自分で作品を作ることができますが、建築家はそうはいきません。人から頼まれて、人からお金を出してもらわなければ、自分の作品を作ることができないのです。
ですから、私達はまず人の信頼が得られる人間にならなければなりません。若いうちはなかなか信頼して大金を預けてくれる人はいませんから、私達は様々な知識や経験を積んで、40を過ぎてやっとデビューという感じです。そうしてやっと自分の世界観を表現し始めることができる訳ですが、建築には様々な制約がつきまとうので、そうそう満足のいく作品ができる訳ではありません。建築を志す人は皆、建築家と呼ばれるようになりたいと思っています。私もそうです。しかし、最近、私は建築家になるには人生が短すぎるような気がしています。裏を返せば、建築とはそれだけ奥が深く、挑戦しがいのある仕事なのだということです。
死ぬまで建築を悩み続けていられたら、こんな幸せなことはありませんね!?
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この回答の相談
この春に小学校にあがるおいっこのことなんですが、
彼はとても建物が好きなんです。
お絵かきも間取りの絵やビルの絵、ブロックでも紙でもねんどでも、
家ばかり作っています。
「けん… [続きを読む]
グエルさん (東京都/31歳/女性)
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