対象:経営コンサルティング
後藤 義弘
社会保険労務士
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ご質問ありがとうございます
*''■ 回答''
''ご質問のように株式による資金調達を考えた場合、一般には 「種類株式」を用いることなく 「普通株式」 のみで数的有利の株式制度の原則を覆すことは難しいものと思われますが、会社法・契約法の視点から、株式以外の方法も視野に入れ、経営権に影響を与えない資金調達手法を検討してみましょう。''
''【考察】''
**'' ★ 会社法の視点から''
例えば、10株ごとに1議決権というふうに、一定単位ごとに議決権を与する ''単元株制度''((会社法第188条))や、1株を10株に括るなどし、総株数を減らし株価を上げる ''株式併合''((会社法第180条))など、会社法には、種類株式を用いることなく株式の 「数」 (議決権) をコントロールする手法が用意されています。
ただ、これらの手法をもってしても、直接数的有利の株式制度の原則を修正できるわけではありません。
資金調達の条件等、詳細がうかがえず何とも言えませんが、既存株主の持株数を上回る数の (普通) 株式発行による資金調達を想定しているのであれば、やはりそこには株式制度の ''平等原則'' が働くため、このような方法で経営権 (議決権) を制限することは難しいものと思われます。((そもそも種類株式制度はそうした原則を修正するためのツールであり、さもなければ、やはり原則に立ち返り「数」に応じた取扱いがなされることになります。))
では、今度は発想を変えて、増資 (株式) 以外の資金調達方法を考えてみましょう。
まず、''新株予約権''((会社法第236条))が考えられます。 「新株予約権」とは、文字通り、将来一定数の株式を購入できる権利 (ストックオプション)、すなわち将来株主になるための権利のことです。
つまり、その権利を行使をするまでは、まだ株主としての権利 (議決権等) がない、つまり、当初は経営に全く影響のないかたちでの資金調達が可能になるということです。
補足
ただ、これも一定期間経過後、その権利者が権利行使することで、今度は株主となって経営に参画してくることになるため、あくまで一定期間経営権を排除できるにとどまります。
次に ''社債''((会社法676条)) です。
「社債」 は 「借入」 と違って約定弁済がないため長期間資金の全額を固定できるというメリットがあります。
一方 「株式」 と違って、一定期間経過後に償還が予定されていること、調達コストが高くなりがちな点不利ですが、議決権等経営権に影響なく資金調達できる点は、ご質問のニーズに合致します。
そう言う意味で「社債」 は「借入」と「株式」の中間的な手法と言えます。
** ''★ 契約法の視点から''
今度は、話を戻して「普通株式」の発行を前提としながらも、株主間の個別契約で経営参画権を制限する方法を検討します。
まず、''株主間契約'' ですが、これは外資がからむ合弁などでよく使われており、相手の議決権行使を契約で制限する手法です。 しかし、これもあくまで株主同士の個別の契約であり、仮に相手方に契約違反があったとしても、会社法の効力には勝てないという限界を持ちあわせています。
あと ''消費貸借契約'' という方法も考えられます。 相手方の持つ株式を借り、自身が株主としての権利を行使する、その代わり貸主である真の株主に賃借料((設定額によっては課税の問題が生じる可能性もあり。))を払うという契約を相互に締結するのものです。
ただ、これらはいずれも相手方の意思に左右される、つまり相手がYESと言わない限り取り得ない方法です。
以上より、会社法が用意した「種類株式制度」は、多数決で経営権のコントロールが可能となる点、資金の長期固定化、調達コスト、法的安定性等、諸観点から意義ある優れたツールであると言えます。
また、会社の事情に応じ、上であげた各手法を戦略的に使い分けていくことも、今後の中小企業の資本政策上重要となってくるものと思われます。
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この回答の相談
同族、友好株主の経営権を損なわず増資をするには種類
株式の発行以外になにか方法がありますか。
ポプラさん (埼玉県/33歳/男性)
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